Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのエンターテイメント

令和6年5月文楽公演 十一代目豊竹若太夫襲名披露

襲名披露口上は、とにかくかっこいい。継承する重責に気概を感じるからか、節目に気合が入るからか、背筋がピンと伸びるからか、見逃せないカッコよさがあります。舞台に上がる技芸員全員からあふれるばかりの誇りが伝わってきました。

提供:国立劇場 撮影:田口真佐美

57年ぶりの大名跡復活です。豊竹呂太夫改め、十一代目豊竹若太夫、77歳での襲名となりました。若太夫は、竹本義太夫の次に大きな名前で、文楽の源流ともいうべき豊竹座の祖として活躍した方。新若太夫は、2年前に浄瑠璃語りの最高位である「切語り」になっています。一番の山場を語れる人、と言ったらわかりやすいでしょうか。

最初に、にぎにぎしくご祝儀曲「寿柱立万歳(ことぶきはしらだてまんざい)」が行われ、続いて緑の裃(かみしも)をつけた人たちが揃って口上を述べる「豊竹呂太夫改め 十一代目豊竹若太夫襲名披露口上」。

そして襲名披露狂言は、『和田合戦女舞鶴』「市若初陣の段」。初代の若太夫が人気演目に仕立て、十代目である祖父も襲名披露に選んだ縁の深いものです。

『和田合戦女舞鶴』は全五段で、上演するのに一日かかる作品です。「市若初陣の段」は三段目に当たる山場の場面

提供:国立劇場 撮影:田口真佐美 左)板額 右)市若丸

将軍実朝の妹を討った荏柄平太(えがらのへいた)は逃亡し、同罪とみなされる妻と息子、公暁(きんさと)は北条政子の館にかくまわれています。そこに身を寄せている板額(はんがく)。実朝は、極悪人の親族をとらえなければ法を乱すことになりますが、自分の母のところに兵を向けるわけにもいかず、大名の子供たちの軍勢を差し向けます。そこに遅れて板額の息子(十一歳)市若丸がやってきました。板額は、夫から離縁されていたので、息子に会うのは久しぶりのことでした。

北条政子は、板額に、公暁は実は頼家の忘れ形見で、実朝の後継者にするために平太夫婦の子供としてひそかに育てさせていたとあかします。板額は我が子を身代わりにして首を差し出すしかないと決意します。市若丸は、武士として誇り高く、最期を遂げようとするのでした。

提供:国立劇場 撮影:田口真佐美 左)浅利与一(市若丸の父)中央)板額 右)市若丸

現代人の我々から見ると、なぜ身代わりにならなければならないのか。なぜ、母が息子に「おまえこそが荏柄平太の息子」と嘘をついて、自ら腹を切らせるように仕向けるのか。さらに「本当は身代わりが必要だったのだ」と真実を告げるところ。11歳の市若丸が「自分が死ぬことが手柄になるのは嬉しい」と言って死んでいくのは、あまりにやるせなさすぎます。

このくだり、涙なしには見られません。板額の人形遣いに人間国宝桐竹勘十郎。新若太夫の語りは情緒豊かで、胸に迫り涙が止まりません。

提供:新国立劇場 撮影:田口真佐美 左)豊竹若太夫

ここまでで十分満足。

ただ、まだこの後も続きます。これまではコロナの影響で一日三部制をとっていたのを、国立劇場閉場に伴い本格的な二部制にもどすためとのこと。普段テンポの速い生活を送っているので、どんなにオペラ好きな私でも5時間は当たり前のワーグナーをどうしても敬遠してしまうのですが、4時間はなかなかのもの。

最後は、世話物の名作『近頃河原の達引』「堀川猿回しの役」「道行涙の編笠」。「道行涙の編笠」は34年ぶりの上演です。

こちらはAプロですが、Bプロは、時代物の名作「ひらかな盛衰記」の半通しとなっています。こちらもお楽しみに!

 

2024年5月9日(木)~27日(月)北千住・シアター1010 Aプロ 5月18日までは11時開演。19日以降は16時半開演。Bプロ 5月18日までは16時開演。19日以降は11時開演。(15日は休演)HPはコチラ

*2024年5月12日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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