Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのエンターテイメント

「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」森美術館

森美術館の現代アートの展覧会が秀逸です。

現代アートというと「ちょっと苦手」とか「わからない」と言って最初から受け付けない人も多いですが、開催中の「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」が素晴らしいという評判を聞いたので行ってきました。驚きと、癒しと、発見と、不安と、攪乱といった様々な感情が沸き起こる魅力的な展覧会です。

《ヘーゼルナッツの花粉》を展示するヴォルフガング・ライプ 豊田市美術館(愛知)2003 年Courtesy:ケンジタキギャラリー(名古屋、東京)撮影:怡土鉄夫※参考図版

パンデミックが起き、改めて「生きる」というはどういうことなのか、一人ひとりが突き付けられました。現代アートに込められた多様な視点を通して「生きる」ということを考えます。
インスタレーション、彫刻、映像、写真、絵画など国内外16名のアーティストの約140点の作品が紹介されています。会場に入り、自分を解放すると、作品の素材感、スケール、香り、音、魂に五感が揺さぶられます。まさにリアルでしか味わえない感覚です。

押し付けるでもなく、才能をひけらかすわけでもなく、奇をてらうわけでもなく、作品はそこにあります。

「これは何を言いたいのか」などと頭で考えずに、自分との親和性の中で作品を感じます。自分にとって不快なものはスキップし、心地良いところで足を止める。そんな見方をしてもいいかもしれません。

「地球がまわる音を聴く」というタイトルは、オノ・ヨーコのインストラクション・アートからの引用です。「地球がまわる音?」「どんな音?」「耳をすませば聴こえるのかな?まさか(笑)」「もし聴こえたらどんな音なんだろう」「そういえば自転していること忘れてた」「私たちはまわっている球体にのっているんだっけ」。観賞する人に心を開くことを呼び掛け、感じる心を呼び起こします。

ヴォルフガング・ライプの《ヘーゼルナッツの花粉》《ミルクストーン》《べつのどこかで―確かさの部屋》。
命の源を連想させる素材を使い、素材に宿るエネルギーや生命の本質を感じさせます。そして、どれもシンプルで美しい。
黄色の四角形の作品には、作者ライプの住むドイツ南部の小さな村で集められたヘーゼルナッツの花粉が使われています。毎年、わずかしか採取できない花粉を集めて制作しています。
《ミルクストーン》は、浅く削られた白い大理石の表面にミルクが張られています。毎日、新しいものに入れ替えるのだそうです。
そしてミツバチが巣をつくるための蜜蝋が塗られた奥行き約7メートルのトンネルの様なもの。甘い香りが漂います。命の営みの中で生まれてきた素材は、あたたかく、迎え入れてくれます。

内藤正敏  左「神々の異界」シリーズ 所蔵:東京都写真美術館  右《戦慄》2004年

ドメスティック・バイオレンスをテーマにした飯山由貴の新作の部屋では泣き声が続き、私はいたたまれず、催眠術の映像が流れる小泉明郎の作品のそばにいると自分が洗脳されそうになりました。いたこや即身仏を題材にした内藤正敏の作品など、観る人にとって感じ方はかなり違いそうです。

ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳) 手前《子宮とダイヤモンド》2021年 奥「5人の空のダンサー」シリーズ 2021年 所蔵:リブ・フォーエバー財団(台中)

最後に、ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)の《子宮とダイヤモンド》「5人の空のダンサー」シリーズ。密教の伝統をもとにした鏡の世界に自分も映り込み、宇宙にとり込まれることで泡立つ心が沈まりました。そこに境はありません。すべてがひとつです。
ひとつに融合することで「よく生きること」ができるかもしれません。

 

「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」
2022年6月29日~11月6日 森美術館 HP:https://www.mori.art.museum

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

https://cross-over.sakura.ne.jp/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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