Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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『獺祭 経営は八転び八起き』 獺祭会長 桜井博志著 西日本出版社刊

年末、お気に入りの日本酒が並ぶ酒屋に行ってきました。年末年始は日本酒を飲む機会も多く、どの銘柄にしようか決めて買いに来ている方や、せっかくだから普段よりちょっといいものを選んでいる方など、どの人も嬉しそう。2本、3本と購入する方たちの笑顔は、その酒を飲んだ時の味わいが口の中で再現されているのがわかります。口に広がる甘さとすっきり感、ほんのりと漂う香り。「おせち」と合わせるお酒はどれにするか、蟹やローストビーフにはどれがいいかと考え、それを飲んだ時、うまくマッチすれば幸せを運んできてくれます。そして、それぞれの酒、蔵元には歴史があります。

『獺祭』の桜井会長の歩んできた道はドラマのようです。そのうち、NHKの「朝ドラ」になるのではないでしょうか。40年前、父親の急逝を受けて山口県の小さな酒蔵を継ぎ、じり貧だった会社を立て直しました。美味しい酒を造りたい一心で生み出した、当時は珍しかった純米大吟醸「獺祭」は、世界へ、宇宙へ羽搏いています。獺祭を造り始めたころの社員はたったの4人でしたが、現在は300人(2025年10月)、年商200億円、輸出先は40カ国で売上の半分は海外です。

獺祭の名前が認知されるようになり、ブランディングが成功してからも、桜井会長は安穏としていたわけではありません。西日本大水害で被災し、コロナで売上が落ち、パリのシャンゼリゼに直営店を出そうとして一度、とん挫し、ニューヨークで酒蔵を造ろうとするも当初の予算より何十億円も多くかかったりしますが、あきらめません。続けること、それがどれだけの苦難と共にあるか、そして縮こまらないで挑戦することが、いかに大事かが伝わってきます。

最初の本が出版されてから約10年。そこから今までの挑戦と失敗の軌跡がつづられた『獺祭 経営は八転び八起き』が出版されました。

冒頭から、心をつかまれます。日本はPDCA。プランを描き、やってみて、チェックして、動け。ただ失敗すれば、2度と立ち上がれないほど非難される世の中です。それが中国ではTECA。トライしてエラーしたらそのつどチェックし、アクションにつなげる。その機動力が素晴らしい。と語るのです。日本でも「失敗してもいいんだよ」と、誰もが仏のような顔をして言うのですが、本当は許してもらえない社会ほど、窮屈で生きづらいことはありません。

桜井会長は語ります「最初は絶対うまくいかないと言っている自分は、反省するしかない」と。効率とか、コスパを判断基準にすると、そんな無駄はありえないでしょう。しかし、これまでの決断の数々は、臆することなく進めてきた成長の歴史です。桜井会長は迷ったり、恐れたりすることはないのでしょうか。

桜井会長が、大手の酒造会社を辞めて実家に戻ったのは1976年のことでした。高度成長期の成長体験を引きずる父親と、将来に不安を抱く桜井会長はぶつかり、会長は父親から勘当同然で首にされます。仲たがいしたまま、父親は1984年に亡くなってしまいます。そのことを、この本の出版記念会で、とても寂しそうに、残念そうに語っていらしたのが、印象に残りました。

その後、跡を継ぐために実家に戻ると、売上は10年間で3分の1になっていた。起死回生のために、他がやっていないことをするしか手はなかった。そこで純米大吟醸を開発し、東京に進出しようともがき続けた。「そこにすがりつくしかなかった」と言うのです。

従業員に給料を出すために、年間通して売上を立てようと地ビールレストランを開いたものの、あっという間に閉店。杜氏に逃げられてしまいます。社員が造る体制にするしかなく、酒米を最高品質の山田錦に集約し、自社の精米工場で平均精米歩合30%以下に高精白し、吸水率を厳密に管理するため人手で洗米を行う。人が造り、品質を守るためにデジタルデータで分析してマニュアル化するといった工夫を凝らします。現状の問題点を把握し、克服する努力をして健全に成長する。問題点に目をつぶって知らん顔はできません

「獺祭 磨き二割三分」が発売されたのは1992年。2005年に、台湾の次にアメリカに進出して海外に力を入れたいと思っていた頃、現社長で息子の一宏さんが入社して、ニューヨークを任されました。まだ社員は10人足らずだったころです。会社が盤石になってから入社されたんだろうと思い込んでいた私にとって、これも驚きでした。共に、歩み乗り越えてきた親子の絆があったのです。そして2015年、アメリカ・ホワイトハウスの公式晩餐会で使われるほどになりました。2018年には、パリでロブションと共同で直営店を出しました。2017年にアメリカの、世界最大の料理学校から声をかけられそこで酒を造ることを決断。こちらで「DASSAI BLUE」を製造・販売することにします。「DASSAI BLUE」の原料は、はじめこそ日本から山田錦を送っていましたが、現在はアメリカで育てた山田錦を使っています。日本では販売していませんが、これが軽やかで美味しいお酒です。

まだまだ、歴史は続きますが、失敗を包み隠さない桜井会長のすごさを感じずにはいられません。お正月休みに是非、どうぞ。

 

*2025年12月31日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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