Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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世界初演 新国立劇場 新制作オペラ『ナターシャ』

多和田葉子の台本、細川俊夫作曲、クリスティアン・レートの演出・美術で7つの地獄をめぐる多言語オペラ『ナターシャ』が開演中です。大野和士芸術監督の日本人作曲家委嘱シリーズ第3弾は、世界の多和田と細川の才能が組み合わされ、世界中の注目が集まります。

日本語、ドイツ語、ウクライナ語など36か国語が使われますが、それらは不思議に調和し、多言語だということを忘れます。主人公たちは、言葉が通じないことなど意識しないかのように、違う原語で歌い、つぶやき、語ります。

多和田葉子は、日本語とドイツ語を使い国境や言語、自然をテーマにした小説で数々の賞を受賞している世界的に評価される作家です。

細川俊夫は、今年、スペインのノーベル賞とも言われるフロンティアーズ・オブ・ナレッジ・アワードで「現代においてもっとも独創的なクリエイターの一人」と評価されました。「作品の並外れた国際的な影響力」と「日本の音楽の伝統と現代の西洋の美学の間に橋をかけた」と言われる現代音楽の世界的第一人者です。

2人は25年ほど前にドイツで出会ってからの仲。想いがあり、それを形にし、同じベクトルで表現して観客に見せるためには、かなり高い、そして深いところでの理解が必須です。それをチーム全員で共有して、昇華させていくことがいかに難しいか。そして様々な化学反応をおこし、新しい見たことのない世界を創り出してくれました。

物語は、息遣いのような、ため息のような声から始まります。「海」という言語が多言語で四方八方からささやきます。細川いわく「言葉が生まれるもとである原始の海」からのスタートです。舞台は幾層にもなったプロジェクトスクリーンで重層的に波や水の映像が映し出されます。

故郷を追われさまよう移民のナターシャ(イルゼ・エーレンス)と、少年アラト(山下裕賀)が出会い、ナターシャはウクライナ語とドイツ語、アラトは日本語で話し、会話は成立しません。そこにメフィストの孫(リスティアン・ミードル)があらわれ、彼にドイツ語で案内されて現代の7つの地獄を回ります。

海の次に行くのは「木のない森林地獄」。ここは地獄への出発点でもあります。1970年代後半、ドイツで大気汚染の影響で森が立ち枯れてしまい人々に大きなショックを与えたことが想起されます。

快楽地獄」では、「楽(らく)」を求めた結果のプラスティックばかりの世界。細川作品の常連、サクソフォンの大石将紀とエレキギターの山田岳が舞台に登場。プラスティックがイメージされるぴかぴか光った服で着飾った2人の女性が歌い、プラスティックをひっかいたような音もします。「洪水地獄」をとおり、「ビジネス地獄」は、お金を求めて働き、ビジネスにまい進する人たちが目を$の文字にして働き続けています。彼らは「じゃらじゃら」とお金を数え、「ばりばり」働き、そして「へとへと」になるまで働き続け、シニカルな笑いを誘います。

原発のような建物の前で騒いでいるのはデモ隊です。ここは「沼地獄」。すべてが焼き尽くされる「炎上地獄」で、ナターシャは美しいアリアを歌います。細川が「初めて自分のオペラで調整音楽を使った」というハ短調のアリア。これほど美しい音楽はあるのだろうかという曲です。「青い地球で唯一の化け物」と、人間のことを歌いあげます。今、アフリカで史上最大規模の旱魃がおきていますが最後は「旱魃(かんばつ)地獄」です。

荘厳な新国立劇場合唱団の歌声に、20以上のスピーカーが客席内にも配置され有馬純寿の電子音で環境音などを含む様々な音響が流れます。そして美術ダニエル・ウンガ―、映像クレメンス・ヴァルター、照明リック・フィッシャーといった世界トップクラスの才能が集結しました。

ナターシャに細川作品を数多く歌い、新国立劇場で2018年に細川俊夫が作曲した日本初演の『松風』で松風役を歌った、細川俊夫の信頼厚いイルゼ・エーレンス。アラトに新国立劇場初登場のメゾ・ソプラノ山下裕賀。メフィストの孫に古典からワーグナーまで歌いこなし、現代音楽のスペシャリストと言われるクリスティアン・ミードル。悪魔らしい重々しさだけでなく軽やかなユーモアもあります。

 

地獄の先に希望はあるのでしょうか。オペラ『ナターシャ』という芸術の中に今の私たちの現実が突き付けられています。人間は自分の欲望のために地球環境を破壊し、それが自分に降りかかってきています。天に唾した人間は、これからどうしたらよいのでしょうか。反省する心を取り戻せるでしょうか。一人の個人として、自分は何をするべきなのでしょうか。

新国立劇場 新制作 創作委嘱作品・世界初演『ナターシャ』2025年8月11日(月・祝)~17日(日)HPはコチラ

*2025年8月15日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます 写真はすべて「撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場」

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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