Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

第10回 五感の味覚

私たちは日々の喧騒の中で、無意識のうちに五感を駆使して世界を受容している。

視覚や聴覚が外部の膨大な情報を処理するための感覚であるならば、

味覚は「身体そのものが直接的に判断を下す」という、五感の中でも最も原始的かつ

繊細な感性であると言えるだろう。

それは単なる食事の楽しさを超え、個人の記憶や深い感情と分かちがたく結びついているのである。

 

身体が下す「おいしさ」の決断

味覚の基本は「甘味」「塩味」「苦味」「酸味」「うま味」の五味にある。

人間の細胞は驚くほど精緻であり、舌にある味蕾(みらい)を通じて、

これらの成分を瞬時に感知することができる。

しかし、私たちが真に「おいしい」と感じる体験は、

これら化学的な情報の集積だけでは語れない。

視覚や嗅覚、聴覚、さらには触覚までもが複合的に作用し、

その瞬間の心身のありようが加わって初めて構成される総合芸術のような感覚だ。

例えば、極限の空腹時に口にする一杯の水。

そこには特別な味付けなど存在しないが、身体の隅々に染み渡るような感動を覚える瞬間がある。

それは舌が味を判別しているというより、身体全体が「今、これが必要だ」と本能的な答えを出している状態に他ならない。

また、夜遅くに啜る温かい味噌汁が、出汁の微かな重なりによって一日の緊張をほどいてくれることもある。

味覚は時に、言葉よりも先に、今の自分自身を深く理解してくれる「静かな対話者」となるのである。

 

味覚は時に、言葉よりも先に、今の自分自身を深く理解してくれる「静かな対話者」となるのである。

 

嗜好を超えた「自己確認」の装置

歴史を紐解けば、味覚を単なる嗜好ではなく、己を律し、判断を研ぎ澄ますための装置として扱った先人たちがいる。

戦国という乱世を駆け抜けた織田信長は、意外にも質素な食事を好んだという記録がある。

贅を尽くすことよりも、栄養価や生存に必要な機能を優先したその姿勢は、単なる倹約ではない。

過剰な味付けで感覚を麻痺させることを避け、「今の自分に何が必要か」を身体の声から直接聞き取ろうとする、

極限状態を生き抜くための研ぎ澄まされた感性の現れであったのだろう。

また、フランス皇帝ナポレオンは食事に時間をかけない人物であったが、

遠征先でも必ずワインを口にしていたという。

目まぐるしく変わる異国の地で、変わらない「一杯の味」を確認することは、

揺らぎがちな自分自身を保つための「基準」を取り戻す儀式であったのかもしれない。

味覚は、環境に左右されない己の芯を確認するための装置にもなり得るのだ。

 

日本に目を向ければ、文豪・夏目漱石は熱狂的な甘党として知られている。

創作に行き詰まった際、彼は羊羹などの甘味を口にしながら思索を深めた。

それは単なる糖分補給という理屈を超え、

甘味が張り詰めた思考を緩め、

眠っていた感性を解放させるための「鍵」として機能していたのではないだろうか。

 

嘘をつけない感性と共に

現代を生きる私たちは、時に理屈やデータで物事を判断しすぎてしまう傾向がある。

しかし、味覚は理屈を介さない。

どれほど高級な料理であっても、

体調や気分次第で「美味しくない」と感じてしまう一方で、

仕事終わりの一人で食するシンプルな食事が、人生で最も輝かしい味に感じられる夜もある。

そこには世間的な評価やデータは一切介在せず、ただ「その瞬間の自分自身」があるだけだ。

味覚は、私たちがどれほど強がり、無理をしていても、今の状態を正確に映し出してしまう。

舌は決して嘘をつかない。

何を「うまい」と感じるか、その素直な反応の中にこそ、自分が今何を求めているのかという真実の答えが隠されている。

味覚とは、決して贅沢を誇示するためのものではない。

それは時代や立場を越えて、人間が自分自身の本質と向き合い続けるために授かった、最も正直で、確かな感性なのである。

 

私たちは今も、そしてこれからも、この静かな五感に支えられながら生きていくのだ。

鈴木 三月 Yayoi Suzuki

東京都出身。 
パリソルボンヌ大学、Institute Catholique大学短期留学後、
パリプレタポルテ・オートクチュール協会日本事務所入社。
その後(株)エルカ入社KENZOのレディースPR担当として働く。
1991年 日本におけるアタッシェ・ドゥ・プレスの先駆けとして(株)パザパを設立。
ヨーロッパのファッションブランド
のPRを主に手掛けるとともに、髙田賢三氏本人からの依頼によりKENZO PARISの日本におけるブランドPR及び髙田賢三氏本人のパーソナルマネージメントをスタート。
又、その後㈱パザパの業務は、ファッションに留まらず、美容・レストラン等衣食住を中心とした業務へと活動の幅を広げる。 
2000年 髙田賢三氏の共同経営者として(株)KENZO TAKADAを日本に設立。 
2011年(株)パザパを、(株)セ・シュエットに社名変更(パザパはPR事業部として存続)。
2013年 調理師免許取得後、フードアドバイザーの仕事をスタート。
各種イベントにおけるケータリング等開始。
2014年よりWEB SITE 『Minimalize+plus』でレシピを公開。
2020年10月、SHOP CHANNELにて自身のウィメンズのブランド・ミニマライズ+プラスをスタート
2023年2月 「髙田賢三と私」を出版。                                                著書を出版後、髙田賢三氏のご功績とお人柄を多くの方に伝える為、又次世代を担う若者及びアーティストの方々に向けて講演活動やラジオ出演をスタート。
WEB SITE Minimalize+Plus https://minimalize-plus.tokyo/
著書『髙田賢三と私』 https://bookpub.jiji.com/smp/book/b621530.html
Minimalize+plus/SHOP CHANNEL https://onl.bz/QeNN3vR
Instagram https://www.instagram.com/yayoi_suzuki_/?hl=ja
FB https://www.facebook.com/yayoi.suzuki.146
X https://x.com/yayoisuzuki
【講演会】
姫路市主催・姫路城世界遺産登録30周年記念事業/公益財団法人神戸ファッション協会主催ファッションスペシャルステージ/名古屋音楽大学ヴォーカルアカデミー2024/たまがわLOOP世界に誇る日本人デザイナー髙田賢三/文化服装学院 世界に誇る日本人デザイナー髙田賢三の偉業/アクリエひめじマダムバタフライ・衣裳に秘めた想い 髙田賢三/実践女子大学・駒沢大学「アタッシェ・ド・プレスの視線」
【ラジオ出演】
渋谷のラジオにゲストに2回出演
https://note.com/shiburadi/n/n7e237019e8be

渋谷ラジオ“ウラハラプロジェクト”第23回”賛同人トーク“』にゲスト出演
https://qr.paps.jp/SDO3M
オンラインラジオ 「渡辺喜子(YoshikoLee)の風」に計3回ゲスト出演
【前編】ファッション界に与えた影響https://stand.fm/episodes/67a5a103cc7911f191c5ec7c
【後編】プライベートについてhttps://stand.fm/episodes/67a5b229b882aa4964b92efe
【特別版】みんなが知らない裏話https://stand.fm/episodes/67aac24d0ecf095805085de0

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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