紳士が知るべき日本の逸品
【笠間焼き】素材を生かし、豊かな日常を演出
大津氏の人柄も写し出される、興趣あるぐい呑みの数々。
しっとりとした質感や手に馴染む凸凹、ハケ目等、表情豊かなぐい呑みは、飲む酒に合わせて使い分けたい。
関東最古の陶芸の里で作られる笠間焼。230余年前、日本六古窯の一つである滋賀県信楽(しがらき)の陶工を招き、指導を 受けたことに端を発する。
栃木県の益子焼はここから伝わった。
関東ローム層に位置する笠間 の土は強い粘り気と粒子の細かさに加え、鉄分の多さが特徴で、渋めに焼き上がるのはこの鉄分の成せる技だ。
ロクロを引いた後の乾燥と火入れで 15%も焼き締まることから、笠間焼は強い、と伝統工芸士であり大津晃窯五代目、大津晃一氏は話す。
その時の土の状 態や季節、天気や湿度によっても違ってくるため、室内外を出し入れしたり、高さを変えて置いたり、ゆっくり乾燥させる管理に気を配る。
特にそり返りが ちな平たいものは気が抜けない。
明治時代は水瓶やすり鉢、湯たんぽといった日用具が主だっ たが、生活様式の変化とともに需要が減少。
三代目の代で登り窯を廃し、新たな暮らしの焼き 物へと方向転換を図った。
今では全国各地、あるいは海外からも、作りやすい笠間の土 に魅せられて移り住む陶芸家も少なくないが、大転換期を乗り切った祖父。
色を研究し、普段 使いの食器から美術工芸作品にまで作風を広げた四代目である父と仕事をしながら、大津氏は江戸末期からこの地で続く老舗の窯元を守る、「自分が受け継ぐ」 決意が固まった。
技術にデザインを融合させ 、 絵や装飾といった表面変化の技法を探求。
日常を豊かに演出する嗜好の器を届けたいという。
柔らかい粘土は実際に触ると形にするのが難しいが、我を忘れて集中できる陶芸。
体験もできるので試してみるのもいい。
裏山を散策できる公園を持つ、地域に根差した大津晃窯。伝統と挑戦が続く窯元だ。
■茨城編
「山海の幸に恵まれ、人々は満ち足り、まるで理想郷である常世の国のようだ」という内容が、奈良時代編纂の『常陸国風土記』に書かれていた茨城県。
今もなお、その特徴は変わっていない。
冬の味覚アンコウや、全国シェア80%近くも出荷するハマグリ等の海産物。
収穫量日本一のメロンや栗、蓮根等をはじめとする数々の農作物が現在も、県内外の胃袋を満たしている。
過ぎたことは引きずらない、というポジティブな県民性は、各所に広がる原風 景や、由緒正しい神社仏閣、海川等の自然と対峙する賜物かもしれない。
県内には水戸をはじめとする城下町や小京都が多く、古くからの技術伝承や教 えを守る老舗も少なくない。
結城紬に粋な桐下駄。癒しの堤灯等、茨城で出合った匠の技と、”男を上げる”粋な逸品をご紹介。