紳士が知るべき日本の逸品
【截金ガラス 山本 茜】
<ガラスの中で煌びやかに浮かぶ截金模様>
「千年後に残るものでなければ美術品とは言えません」 裁金ガラス作家・山本茜さんは、涼やかな声でさらりと一言つてのけた。
想像もできない歳月の長さに返す言葉を失う。
だが、実際に私たちは千年前の工芸品を当たり前のように鑑賞している。
千年後の人々の鑑賞に堪え得る作品を目指す作家がいてもおかしくはないはずだ。
裁金ガラスは、裁金を施したガラスを重ね合わせて溶着し、研磨を繰り返して仕上げる世界に類のない工芸美術である。
裁金の技法は飛鳥時代に仏教の伝来とともに伝わり、寺社が集まる京都には多くの裁金師が存在していた。
金箔、銀箔等を数枚重ね合わせ、細く直線状に切った「細金」を張り付けて仏像や仏画に文様を施す伝統技法で、最も古い例では法隆寺所蔵の「玉虫厨子」の一部に施されていることが確認されている。
裁金作家として活躍していた山本さんは、裁金文様をより美しく見せたいと考えた末に、ガラスの中に浮かび上がらせる構想に辿り着いた。
すぐに富山ガラス造形研究所でガラスを学んだ後、試行錯誤を繰り返し、金箔の文様が光の反射を受けて埋びやかに浮かび上がる、唯一無二のガラス作品を作り上げたのである。
日本へは仏像・仏画の装飾として伝わったが、実を言えば、紀元前のヘレニズム時代に製作された、金箔の植物文様を挟み込んだガラスの工芸品が見つかっている。
試行錯誤の末に、図らずも先祖日帰りしたようなものだ。
静かな京北の山あいでひとり制作に没頭する彼女だが、「2000年前の職人と会話をしているようで楽しい」と笑う。
幾千年の後、彼女の作品に魅せられ、磁きかけてくる人は、いてくれるだろうか。
裁金硝子菓子器「円窓」。和室の円窓から射し込む光をイメージしている。ガラスに浮かぶ裁金の美しさは、写真だけでは伝えることができない。
筆を巧妙に使い、細くて薄い金箔を謬で貼り付けていく。
繊細で集中力と根気が必要な作業だが、 ガラスの溶着に 失敗し、 すべてが無駄になることも度々だという。
金箔を重ね合わせる箔焼きの作業から、 文様を貼り付ける裁金、 ガラスの溶着、 延々と繰り返す研削、研磨。
完成までには途方もない手間と時聞がかかる。
山本茜オフィシャルサイト
http://akane-glass.com
山本茜個展 向島屋日本橋店美術画廊にて
5月25日(水)~5月31日(火)
■京都編
長岡京、平安京の遷都が行われた延歴年間からおよそ120年。
東京に首都を移した今日に至っても、古都・京都は変わらずに日本の伝統文化の中心地である。
京都の伝統文化と人々の暮らしは、常に多くの伝統工芸士によって支えられてきた。
暮らしの中に生きづいている伝統工芸品を守り、伝えて続けている文化の新しい担い手たちをご紹介。