紳士が知るべき日本の逸品
【京すだれ 川崎音次】
<京の生活と共に十年の歳月を重ねてきた伝統一乙芸>
君待つと我が恋ひをれば我が宿の簾動かし秋の風吹く___
風に揺れるすだれで恋心を描写した歌が万葉集の中にある。作者の額田王は七世紀の女流歌人。すだれの歴史は、少なくとも奈良時代まで遡ることになる。
打ち水に濡れた石畳、風鈴の涼やかな音色、そして軒先にはすだれ。
京の夏といえば、そうした風情ある街並が目に浮かぶ。
古から都人の生活とともにあったすだれは、今も変わらず京の街に溶け込んでいる。
度を原料にした度貸(よしず)など、軒先に吊るすものを「外掛けすだれ」と呼ぶが、大名や公家が室内で使う竹製のものが「御簾」であり、近代になって改良され「座敷すだれ」となった。これに茶室用のものを加えたものが「京すだれ」だ。
昔ながらの手編みで京すだれを作り続ける川崎音次氏は、職人歴五O年を超える大ベテランである。指で穫の節を触りながら査みを直し、太さのバランスも見ながら一本ずつ編んでいく。
いい加減に編むとすぐに仕上がりが歪んでしまうので、簡単なようで熟達した技が要求される。原料となる霞などの選定にも長年の経験が生きる。
「十五歳から始めたすだれ作りですが、面白いと思うようになったのは五O歳を過ぎてからですよ」とにこやかに笑う。
節電ブーム以降、再評価されたものの、生活様式の変化で需要が激変し、琵琶湖の水質悪化で良質の蔑も入手が困難になった。
逆境に立たされ、初めて真剣にすだれの可能性を考え直し、目覚めたのだという。
すだれの効用と技術を最大限に活かし、新しい生活様式に合わせたモノを作っていく面白さ。
時代の変化とともに伝統技術を継承していく。
それもまた職人の仕事なのだ。
槌の干のついた木綿糸を交互に撮り下ろすようにして編んでいく。
手編みで製作する店は数軒しか残っていないが、 機械編みでは出来ない微妙な調節が可能なので仕上がりの質が違ってくる。
川をイメ ー ジしたデザイン。
節を利用してア ート作品に仕上げることも可能。
他に染料を使ったカラフルな室内用すだれも多く製作している。
倉庫には膨大な原料が眠っている。
三十年ほど寝かせると色が落ち、 風合いが違ってくるのだという。
川崎すだれ
干621-0052京都府亀岡市千代川町千原片ホコ14・3
Tel. 0771-22-6833
http:/ /www kyo sudare.com
■京都編
長岡京、平安京の遷都が行われた延歴年間からおよそ120年。
東京に首都を移した今日に至っても、古都・京都は変わらずに日本の伝統文化の中心地である。
京都の伝統文化と人々の暮らしは、常に多くの伝統工芸士によって支えられてきた。
暮らしの中に生きづいている伝統工芸品を守り、伝えて続けている文化の新しい担い手たちをご紹介。