紳士が知るべき日本の逸品
【錦織物 龍村 周】
<繊細にして絢爛豪華な織物の比類なき究極美>
錦織とは、金銀糸や種々の色糸を使い華置な文様を織り出す先染め紋織物を総称したものである。
京都の西陣織がよく知られ、絢燭豪華なイメージが強いが、実物を間近で見れば、華やかさだけでなく、極めて繊細で、ふくよかな質感を持った美しい織物であることがよくわかる。
品格、すべてが凝縮された最高峰の芸術作品なのだ。
工程は、図案を元に織物の設計図である紋意匠図を完成させることから始まる。
糸の性質や染める色の指定、どこに、どのような組織で織るか、すべての指示を、方眼紙の升目を使って細かく書き込んで行くのだ。
作品の創造性と芸術的完成度が左右される製作の要であり、労力のほとんどが紋意匠図作りに費やされるのだという。
紋意匠図が出来れば、その指示に従って、製糸、糸染めから製織まで、それぞれの職人の手を通して織物が形になっていく。
錦織は専門分業による共同製作であり、総合芸術でもある。
したがって作家は、オーケストラの指揮者のような存在だという。
そのように説明してくれた龍村周氏は、正倉院の古代裂の復原も手掛け織物美術史上最高の天才と謡われた初代龍村平蔵のひ孫にあたる。
織物技術を継承する者として、技術が失われていく現状を憂い、技術を後世に伝えたいという気持ちは強い。
「奈良時代には既に最高峰のものが出来上がっていた。当時のものを復原しようとしても、わからないことだらけです」 当時の織物に比べ、現代の技術が劣っていることを痛感するという。
先人の技術に肩を並べるには、日々積み上げていくしかないが、頂ははるかに遠い。
「私の寿命が300年あれば、何とかなるかもしれません(笑)」
製織は木製手織機の「高機(たかぱた)」を使う。
複雑で精綾な錦織は今日でも手足を使って丹念に 織り上げるしかなく、風合いも違うという。
代表作「ヴイエリチカの宝」。
ポーランドの岩塩坑をイメ ー ジしたものだ。
工房に併設されたギャラリーに は父・龍村光峯氏の作品も多数展示されている。
龍村光峯
〒603-8107
京都市北区紫竹下ノ岸町 25
Tel. 075-492-7275
■京都編
長岡京、平安京の遷都が行われた延歴年間からおよそ120年。
東京に首都を移した今日に至っても、古都・京都は変わらずに日本の伝統文化の中心地である。
京都の伝統文化と人々の暮らしは、常に多くの伝統工芸士によって支えられてきた。
暮らしの中に生きづいている伝統工芸品を守り、伝えて続けている文化の新しい担い手たちをご紹介。