紳士が知るべき日本の逸品
【ふじやま織】高密度で表情を際立たせるジャガード織
ふっくらとした織り上がりが上品な、“男” を上げる「TORAW」
のネクタイ。一見、単色に見えるところも色が混じり合い、複雑
だがキメの細かい柄が浮かび上がる。仕事だけでなく、女性との
時間にも楽しみたい。
江戸時代に一大織物産地として名をとどろかせ、明治維新後は薄くて軽く、優美な高級絹織物「甲斐絹(かいき)」で人気を博した富士吉田市。現在は、伝統技術を今に甦らせる 〝ふじやま織″ の産地。細番手の先染め糸を使い、高密度に織り上げる、さまざまな種類の布と多品種のアイテムが、市内各所で作られている。
正絹ネクタイ生地専門の織物工場、渡小織物もその一つ。長年名だたるブランドのOEMを数多く手掛けてきた実績と経験を生かし、三代目の渡辺太郎氏が4年前に満を持して、ファクトリーブランド「TORAW(トラウ)」を立ち上げた。
織機で織り上げるとは言え、ジャガード織を構成する糸選びから、仕上がりの柄を計算した糸掛け、柄を作るテンションの調整等、人の技術や経験、目配り、感性なくしては始まらない。
先染めした、髪の毛より細いものもある極細糸を使うことで、プリントとは一線を画する、キメの細かい柄がくっきりと現れる。使われている糸の本数や密な織り、高級シルクのテクスチャーが重厚感を際立たせるが、使われている糸が極細のため、しなやかだ。
ネクタイは締めては緩める動作を繰り返す。しっかり織られた組織は、ホールド感のある締め心地をもたらし、さらに薄い芯を組み合わせることで、型崩れしにくくなる。ダンディズムを極めるなら、色や柄の好みの前に、まずは生地のよさと芯地とのバランスを確認したい。
渡小はシルク糸の品質にも色にも妥協を許さない。先染めのシルク糸で織られたネクタイは、艶やかな光沢と深みのある色をたたえ、しっとりとした風合いに仕上がる。紳士の胸元には欠かせない1本だ。
30年以上経つ織機は、それぞれに癖がある。「アンティーク
のクルマを巧みに操る運転手のように、癖に合わせて、いかに
ハイグレードのモノを作るか」と話す渡辺氏。工場の背後には、
壮大な富士山が構えている。
渡小織物
〒 403-0004 山梨県富士吉田市下吉田5826
Tel 0555-22-1885
http://www.watasho-orimono.com
■山梨編
世界文化遺産に登録された富士山をはじめ、全国的にも知られる八ヶ岳や南アルプスといった山々に囲まれ、県土の80%近くを森林が占める山梨県では、四季折々の大自然を満喫することができる。フルーツ王国としても有名だ。
「2014年ふるさと暮らし希望地域ランキング」では1位になった。
水に恵まれ、鉱物や石材等の原産地でもあるという土地柄を背景に、伝統工芸品も数多くあり、匠の技が伝承されている。伝統を守りながら、日々研鑽する男たちの逸品をご紹介。