Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士が知るべき日本の逸品

【甲州雨畑硯】“ 精神の器 ” を彫る十三代目硯匠の誇り

江戸初期の1690年に、武田信玄公が金鉱探索を行った場所とも伝えられる、富士川支流の雨畑地域で黒一色の石を見つけた雨宮孫右衛門氏。
硯作家の雨宮弥太郎氏は、初代孫右衛門氏から続く雨端硯本舗の十三代目だ。
何十万年の歳月とともに海底に溜まった泥が圧縮されて固まった雨畑石には、長石(ちょうせき)や雲母(うんも)といった鋒鋩(ほうぼう)と呼ばれる固い部分が均等に混じり合っており、その鋒鋩がおろし金のような役割を果たし、墨を色濃く導く。

山梨 甲斐雨端硯本舗01
悠想硯(手前)と半月硯。魅了されずにはいられない、ミニマムに研ぎ澄まされた
モダンなフォルム。 彫って磨き上げられた硯は、墨液や漆を塗って石の目をつめる。
しっとりとした艶は漆ならではの美しさ。
※ 雨宮家の硯は八代目の純斎の頃に、時の元老院議員より「わが国の端渓硯(中国硯の名産地)」
と称されたことに由来し “ 雨端硯 ” という。

 

層となった石を荒彫りして平らにしていく作業では、ノミを肩で支えて全身を使い、石と体のリズムを響き合わせて紙を剥がすように彫っていく。全身全霊を傾けた仕事だ。
今もなお鹿や猪が生息する裏山、草木や水を豊富に有する自然豊かな環境で、綿々と続く伝統的な手作業を介しながら、現代の感覚と呼応する硯を作る。

山梨 甲斐雨端硯本舗02
右肩に食い入るようにノミの柄を抱え込み、ズーッズッズッ、
ズッズッズッと全身で石の層を剥がすように彫る。 形作る際は
無心と言うが、石と共鳴し、石質を引き出すことで、使ったとき
に “ 気持ちいい ” 形になる。

 

今では墨と筆、紙、硯の文房四宝を使いこなすことはほぼなくなり、硯は身近な存在とは言えなくなった。
しかし硯に向かい墨をすり、する感触や墨の匂いを感じ、空間を享受する時間は貴重だ。
雨宮氏は石(硯)を見て向き合う行為は京都・龍安寺の石庭にも通じ、硯は “ 禅ストーン ” と話す。

デジタル化が進み慌ただしい日常だからこそ、敢えて作りたい時間であり、行為だ。
抽象的な現代彫刻だからこそ、無我の境地に近づけ、気持ちが落ち着き心が静まる硯は “ 精神の器 ” 。
見ているだけでも置いておくだけでもいい。
想いを込めて作られた価値ある硯に接し、悠久のロマンや宇宙を感じたい。

 

甲斐雨端硯本舗
〒400-0601 山梨県南巨摩郡富士川町鰍沢5411
Tel.0556-27-0107
http://www.amehatasuzurihonpo.com

 

■山梨編
世界文化遺産に登録された富士山をはじめ、全国的にも知られる八ヶ岳や南アルプスといった山々に囲まれ、県土の80%近くを森林が占める山梨県では、四季折々の大自然を満喫することができる。フルーツ王国としても有名だ。
「2014年ふるさと暮らし希望地域ランキング」では1位になった。
水に恵まれ、鉱物や石材等の原産地でもあるという土地柄を背景に、伝統工芸品も数多くあり、匠の技が伝承されている。伝統を守りながら、日々研鑽する男たちの逸品をご紹介。

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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