紳士が知るべき日本の逸品
【越前打刃物】高村兄弟の三位一体の技
高速回転する砥石を使った微妙な角度調整は真剣勝負。高村では家庭でも研ぎやすいよう、
他ではやらない技術を要する研ぎ作業を惜しまない。
技術が結集され、切っても、見た目も魅了する、鍛造粉末不錆鋼ダマスカス共鍔貫通八角柄「打雲 花」の筋引き(上)と三徳(中)。人工大理石の柄が特徴のステーキナイフ(下)。両刃仕上げのため、利き手の左右に関係なく使える。
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国内外の名だたるプロの料理人が、こぞって惚れ込む包丁。
素人であっても食材の上に刃を当てると、重みだけで自然と滑っていくような切れ味は痛快。何かを切りたくなる、料理がしたくなるのが高村の包丁だ。
越前打刃物の歴史は、京都の刀匠・千代鶴国安が刀剣に適する水、炭、土の三拍子が揃った当地へ、今から約700年前に移り住んだことに端を発する。
軍事機密であった火作り鍛造と手仕上げの技法を、 “ 食 ” の重要性を鑑みて惜しげもなく農民へ伝授。野鍛冶が誕生した。
越前漆に用いる、漆をかく鎌がよく切れると諸国で評判になり、越前打刃物の質の高さが口コミで広まった。
高村では昔ながらの伝統技法に加え、さらに “ 切れる ” 技術を代々継承している。
二代目の父は戦後、 “ 切れる ” ステンレス包丁を確立。
三代目である三兄弟は、肉汁を一滴も出さずに切るステーキナイフを「NARISAWA」のシェフ・成澤由浩氏の要請で実現。仕込みで前夜にカットしておいた野菜が翌朝くっついていたと、他のレストランからの逸話も残る。
この細胞を痛めない優れた技術は包丁にとどまらず、大学の再生医療との研究にも関わるなど、料理以外の専門分野でも活用されている。
また、和包丁に見られる八角柄は柄付け部分が楕円形のオリジナル。
角度をつけて切る際、中指、薬指、小指のグリップの感覚が角度に関係すると分かり、柄全体を八角にする必要がなかったという。
強さとしなやかさを兼備した高村のステンレス包丁は、地鋼と地鋼で刃鋼を挟む3層構造。中でも32層に重ねた地鋼からなる計65層の包丁は圧巻だ。
鍛造(鍛冶)に徹する長男を中心に、地元でも屈指の研ぎを誇る弟と、焼きを担当する弟による三位一体の仕事は100もの行程から成り立っている。
高村刃物製作所
〒915-0873 福井県越前市池ノ上町49-1-6
☎ 0778-24-1638
http://www.takamurahamono.jp
■福井編
神に供え天皇に捧げる食物 〝 御贄(みにえ)“ を供する “ 御食國(みけつくに)” であったのをはじめ、江戸から明治にかけて活躍した北前船の寄港地(三国湊と敦賀港)があるなど、奈良京都に近い要衝であり、多くの文化や歴史を積み重ねてきた福井。
現在は幸福度N0.1の県として知られ、日本の原風景が残る当地では風土や歴史、人々が育んできた数々の逸品がある。
代々受け継がれてきた匠の技。職人気質が物語るこだわり。
伝統を守りながら、日々研鑽する男たちの逸品をご紹介。