魅力ある紳士達の出会い
第4回「紳士は手紙を武器にする」
日々の主要なコミュニケーション手段と言えばLINEかメール。
そこに、電話が割り込むといったところではないだろうか。
メールでさえ、ビジネス書式のものを除いたら、
要件を抽出したごく短い文章のやり取りが主流のように思う。
思い起こせば、人が自らの伝えたいことを相手に届けるのは
長い間手紙と相場が決まっていた。
時候の挨拶、ご機嫌伺い、礼状、詫び状、恋文。
肉筆でしたためた手紙をやり取りするという時代が、さかのぼれば
飛鳥時代から脈々と受け継がれてきたわけだ。
平安時代などは、手紙がどのような紙に書かれ、和歌が含まれた
文章から相手のセンスや教養を読み取ったという。
近年になっても、まだ手紙が頻繁に流通していた時代を振り返ると、
文字の上手い下手、筆記具の選び方、手紙の書き方のマナー、
文章の巧拙などを以ってしてその人の人となりや知性が
推し量られたものだ。
そして少し前までは、万年筆という小道具は
パイプやショットグラス、或いはゴルフクラブ同様、
紳士のセンスを発揮する小道具だった。
ペン先は硬めの書き心地でしっかりとした書き味のものが
いいか、それとも柔らかくしなる書き心地を選ぶかのか。
また太めのペン先がいいか、細く繊細な文字が書ける
華奢なペン先を好むのか。
さらに通は14金、18金、21金と純金度にもこだわったものである。
モンブランやビスコンティ、ペリカンなど高級万年筆の銘柄も
ステータスになり得たものだ。
若い人の中には万年筆を持たない人も珍しくなくなったが、
驚かされるのは、大切な書状や重要なサインの折に
何の迷いもなく簡易ボールペンを使ってしまうことだ。
手書きの礼状をもらったと思ったら、
丸っこい文字が青色のボールペンでキャラクター便箋に書かれていた
なんていうことになると途端に興ざめし、
若者とは言えその人の評価は間違いなく下がるだろう。
最近ではマナー本においてもボールペン書きの礼状をよしと
するものも見受けられるが、やはり万年筆使いだと格も上がると思う。
さらに詫び状となると、ボールペン書きでは詫び状の役目を
果たさないと言っても過言ではない。
ペンの選び方を含めた手紙におけるセンスと教養、
これこそが「紳士のたしなみ」なのである。
多くの人が手紙を書かなくなった時代だからこそ、
特別な思いは手紙に託す価値が一段と高まったと言っても良い。
最悪、ワープロ打ちの手紙でも構わない。
紙にしたためた個人あての文章は心に与えるインパクトが違う。
ただ印刷の文字であったとしても、最後に自筆のサインを添えるべきだ。
ペンの選び方、筆の圧力などで個性を発揮するのである。
昭和の男たち、さらにしかるべき地位を築いた男たちは、
手紙の価値を知っているから、ここ一番の時には
達筆な文字と説得力のある文章で訴える。
中には流麗な筆文字という人もいる。
ひとより頭一つ抜けるためにはハイブランドで飾りたてるよりも、
しかるべき文章をしかるべき筆記具でしたためられるほうが
ずっと効果的なのである。
とは言え、必ずしも習熟した文字である必要はない。
日本人が喋る英語がネイティブスピーカーばりでなくても、
意味合いと熱意が確実に伝わることのほうが重要なように、
誰もが書道家のような文字である必要はない。
生きる力にリンクするような文字の勢いと
書きなれた感じが発揮できればいいのである。
紳士として頭一つ抜けるためには、今からでも遅くない。
手紙に習熟するべきだ。
南 美希子 Mikiko Minami
(元テレビ朝日アナウンサー・エッセイスト・司会者・コメンテーター)
東京生まれ
東京女学館から聖心女子大学国語国文学科へ
大学3年生の時にテレビ朝日アナウンサー試験に合格。
3年終了後、1977年テレビ朝日アナウンス部に入社。
1986年12月に独立。
以降テレビ・ラジオ・執筆・講演・司会などで活躍中。
日本抗加齢協会公認のアンチエイジングアンバサダー。
美容・抗加齢に関しての知識も豊富。
東京理科大学オープンカレッジで話し方の講座を持つ。
https://mikikominami.net















