Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

魅力ある紳士達の出会い

第2回「夏に装うダンディズム」

40度に届かんばかりの炎暑にあえぐ日本列島。

お洒落を志向する紳士淑女にとっては最も悩ましい季節だ。

通気性と吸湿性に優れ、洗濯機で毎日洗濯可能なコットンTシャツと短パンがいかなる場所でも通用するならば、どんなに楽だろうと生身の人間ならば考えないはずはない。

しかし、それに甘んじてしまっては男がすたるのである。

ところで、盛夏には省エネに貢献すべく、できるだけ軽快な服装で過ごそうという呼びかけが、しばしば政府や政治家の主導で行われてきた。

真っ先に思い出されるのは第2次オイルショックの頃のことである。

省エネルギーを実現するため、第一次大平内閣が提唱した「省エネルック」だ。

すでに社会人になっていた私は、時の首相の大平正芳さんが半袖のスーツ姿で頻繁にメディアに登場していたことをよく覚えている。

ただ失礼ながら、初老の日本人男性の半袖スーツ姿は、お世辞にもかっこいいものではなかった。

その証拠に私の周辺でもほとんど広がらなかったと記憶している。

第69代内閣総理大臣 大平正芳 氏

(日本経済新聞「NIKKEISTYLE」より2018年6月9日

 

また、首相を取り巻くSPたちが普通のスーツ姿だった事も、キャンペーンめいたものを感じて 白けたものである。

政治家の省エネスーツといえば大平正芳さんよりもむしろ、1994年に第80代内閣総理大臣に就任した羽田孜さんの印象の方が強いように思う。

在任期間はたった2か月という超短命政権ではあったが、政治家の省エネスーツを国民の目に強く焼き付けたという意味においては、羽田孜さんの右に出る人はいないのではないだろうか。

調べたら、羽田孜さんの省エネスーツは総理になるずっと前から始まっており、地元の熱烈な支持者である洋品店店主からのプレゼントがきっかけらしい。

そして首相就任前、羽田孜さんは大蔵大臣(財務省)を務めていたが、この大蔵大臣時代から半袖スーツは、もはや羽田孜さんのトレードマークになっていたのである。

実は、羽田孜さんとフォーマルウエアの老舗だったカインドウエアの渡辺会長とは親戚関係にあったそうだ。

大臣ならば、生地やスタイルにこだわって仕立てたものを着て欲しいという、渡辺会長の提案を質実剛健を旨とする羽田さんがようやく受け入れて誕生したという逸話が残っている。

素材も高級素材を使い、裏地はメッシュ地。縫製にもこだわり、通常のスーツの1・3倍の時間をかけて作ったそうだ。

マオカラーの半袖スーツは確かに羽田総理によく似合っていた。

しかしながら、こちらも一般に広まったかというと残念ながらそうはいかなかった。

第80代内閣総理大臣 羽田孜 氏

(日本経済新聞「NIKKEISTYLE」より2018年6月9日

時は流れ、2005年に環境省が中心となって推進したのが、「クールビズ」で現在も継続中だ。

このクールビズの考案者は、当時の環境大臣だった小池百合子(現東京都知事)さんだが、羽田さんの省エネスーツ(ご本人の命名はニューサマースーツだったそうだが)がアイディアの原点だったという。

クールビズは冷房使用時の気温を28度にしても快適に過ごせる服装として登場したわけだが、ノーネクタイ・ノージャケットはまたたく間に世間に広がった。

ポロシャツだけでなくアロハでの勤務を認める企業もあるそうだ。

クールビズは当初実施期間を盛夏と定めていたが、現在では環境省からの呼びかけは廃止されている。

もはやクールビズは、政府に主導されることなく酷暑大国である日本でしなやかに定着した感がある。

一般企業はもとより、民放の夕方のニュースの若手男性アンウンサーなどにおいても夏の定番のスタイルとなり省エネスーツとは比べ物にならないくらい普及している。

ビジネスシーンにおいても濃淡はあろうが、クールビズでは失敬だなどという発想も払しょくされている。

そんな中、イギリスで6月下旬に開催されたロイヤルアスコットで競馬観戦に打ち興じる紳士たちのスナップ写真に思わず目が奪われた。

階層により参加者のドレスコードが4段階に分かれているのも英国らしいが、男性はスリーピースのスーツ姿がほぼ主流と言っていいかもしれない。

ぴしっとネクタイを締め、チャールズ国王など上層階級の紳士の中にはダーク系のモーニングスーツに色鮮やかなベストを中にちらつかせる洒落者も多くみられた。

  

 

この光景を見てお洒落の神髄ここにありと唸らずにはいられなかった。

6月下旬のイギリスの気候については詳しくないが、スリーピースは決して楽な服装ではあるまい。

万人がクールビズに狂奔する中、際立った存在感を発揮したいのなら、

やはり真夏のスーツにネクタイをおいてほかにあるまい。

勿論、環境への配慮も大人のたしなみであることはいうまでもない。

しかしである。

ポロシャツとチノパンだけに埋没しない心意気を決して忘れないのが、紳士のたしなみである。

お洒落とは時に不合理で不経済で窮屈なものであるけれども、それを承知で挑む情熱を捨てたらおしまいなのである。

南 美希子 Mikiko Minami

(元テレビ朝日アナウンサー・エッセイスト・司会者・コメンテーター)

東京生まれ

東京女学館から聖心女子大学国語国文学科へ

大学3年生の時にテレビ朝日アナウンサー試験に合格。

3年終了後、1977年テレビ朝日アナウンス部に入社。

198612月に独立。

以降テレビ・ラジオ・執筆・講演・司会などで活躍中。

日本抗加齢協会公認のアンチエイジングアンバサダー。

美容・抗加齢に関しての知識も豊富。

東京理科大学オープンカレッジで話し方の講座を持つ。

https://mikikominami.net

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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