紳士のための焼酎入門
第34回「竹焼酎とはどういうものなのか」
今年も桜の季節が終わります。
みなさんお花見はされたでしょうか。
ワタクシはお店のお客様のおすすめで、とある川沿いのお花見を満喫してきました。
それにしても桜の花を見てるとなぜかほっこりしますよね。
のんびりつまみを食べながら缶ビール!
…とは言っても車で行っていたのでノンアルコールのやつですけどっ。
さて今月のテーマは「竹焼酎」です。
だいぶ前にこのコラムでも焼酎の原料についてお話したことがあります。
本格焼酎の原料については種類が限定されているということでした。
その中には今回の竹は含まれていませんでした。
それでは「竹焼酎」とは一体どんなものなんでしょうか。
話は10数年前、ワタクシがまだ焼酎バーで修業中の頃の話に遡ります。
とある焼酎好きの芸能人の方が当時通って下さっていました。
その方がある日の帰り際にワタクシに一言、
「竹で作られた焼酎があるって聞いたんですけど、どんな焼酎なんですか?」
と低音の渋い声で聞いてこられたわけです。
とても緊張しながら答えたのを今でもよく覚えています。
「それは竹の中で熟成をさせた米焼酎のことだと思いますよ」と。
一応その時は、それでもまた調べておきますよと伝えてお別れしました。
実際のところはどうだったのでしょうか。
日本酒などでは青竹の酒器で香りの移った酒を楽しむ飲み方が古くからあるようです。
ただし焼酎となるとずいぶん最近の話になってしまいます。
縁起物として松竹梅という言葉があるので、竹と酒名につく焼酎は元々あります。
「竹の翁」や「竹宵」という名前の焼酎がありますが、特に原料的には竹は関係ありません。
竹が直接関係してくるのは1990年代のようです。
竹を炭化させた竹炭によって焼酎をまろやかにするという手法が登場します。
竹炭濾過といわれるものがそれです。
代表的なものでいうと韓国の焼酎「チャミスル」がまさにそれです。
韓国語で「澄んだ酒」を意味するこの焼酎は、韓国で初めて竹炭濾過を採用した焼酎です。
ほのかな甘みとまろやかな口当たりが、食事の引き立て役に最適です。
日本でも竹炭濾過の焼酎はかなり出ています。
米焼酎や麦焼酎で飲み口をスムーズにするために製法として取り入れているところが多くあります。
また芋焼酎などでも香りを抑えて飲みやすい銘柄として販売されているものもあります。
とりあえず名前に竹と入っているものの中にもいくつもあります。
「竹香蔵」や「竹伝説」、「竹乃恵」、「竹物語」などが竹炭濾過の焼酎です。
ただしここまで紹介してきたものはあくまで竹本来の味わいには関係しないものばかりです。
2010年頃になると、それががらりと変わります。
竹を粉状にした竹パウダーの登場です。
元々竹パウダーは肥料として開発されたもののようですが、それを焼酎に転用。
竹パウダーを原料として焼酎に混ぜ込むことで、独特の風味を得ることに成功しました。
銘柄でいうと「竹の雫」や「珍竹酎」などがこれに当たります。
また生きた青竹の中に焼酎を入れて熟成させることで、竹の風味を生かした焼酎も生まれました。
「薩摩翁」や「青竹」といった銘柄が代表的です。
これらはどこから焼酎を入れたのかわからないような作りになっています。
また単純に竹の容器に詰めた「博多小女郎」や「竹将」、「清香」といった銘柄もあります。
冒頭の方でお話しした、青竹の酒器で飲むというのに近いですね。
宮崎の高千穂地方などでは、青竹の筒に焼酎を注いで燗付けした「かっぽ酒」なるものがあるようです。
焼酎を注ぐときにカポカポと音が鳴ることからそう呼ばれるようです。
さて竹焼酎の進化はこれではとどまりません。
2015年頃にはとうとう竹そのものを原料とした焼酎が登場します。
「天笙」や「笙姫」といった銘柄がそれです。
これらは世界で初めて主原料に青竹を使った焼酎となります。
元々は千葉県市原市の放置竹林の対策として生み出された商品のようですが、
ふるさと納税の返礼品としても採用されていたようです。
そう言えば前述の「竹の雫」も福岡県八女市の竹林問題対策の産物でした…。
さてざっと竹関連の焼酎について駆け足で解説させて頂きました。
ちなみに途中でさらっと流してしまいましたが、生きた青竹に入った焼酎。
本当にどこにも切り口がないんですよ。
ちょっと不思議な感じがしますよね。
独特の技法で入れているとのことですが、ほんの少しずつどこかから蒸発?していくようなのでご注意を!
ワタクシも放置してしまい、気がついたら中身が空っぽになってしまっていました~!
それでは今回もおすすめの焼酎を一本紹介しておきましょう。
コラムの内容とは一切関係ないんですが、せっかくの限定品なので。
わりとファンの多い麦焼酎の高級ヴァージョンです。
今回もなんとかワタクシの店にも入荷しております。
皆様ぜひお試しください(宣伝?)。
* 今回のおすすめ焼酎 *
「極上 閻魔」
麦焼酎・25度・大分県・老松酒造
5年熟成の原酒と25年以上の長期熟成原酒をブレンド。
豊かな樽熟成の風味と25度とは思えないほどの余韻の長さがこの焼酎最大の魅力。
山口 昌宏
焼酎・梅酒が日本一、GEN & MATERIALを経営。酒全般マニアの元バーテンダー。
株式会社GENコーポレーション社長。
バーテンダーをしている中で、2000年に焼酎と出会いマニアに。
焼酎ブームの火付け役ともされるEN-ICHIで修業後、独立。
現在、東京・渋谷に数店舗を持ち、大阪にプロデュース店有。
昨年、兵庫・高砂に焼酎日本一の店舗「セイエイカン」を開店。
紳士のための焼酎入門 その他の記事
- 山口 昌宏
- 第1回「焼酎とは一体何者か?」
- 第2回「焼酎の甲類と乙類って?」
- 第3回「焼酎はなぜ25度なのか?」
- 第4回「焼酎をお湯割りで飲む理由」
- 第5回「お湯割りの黄金比率?ロクヨンとは」
- 第6回「焼酎造りに必須の“麹”とは何か」
- 第7回「泡盛って一体何なのか?」
- 第8回「11月1日は焼酎の日!」
- 第9回「焼酎は日持ちするのか?」
- 第10回「お神酒と焼酎」
- 第11回「芋焼酎になるのはどんな芋?」
- 第12回「芋焼酎をより楽しむ為のさつまいも講座」
- 第13回「焼酎にオリが出てますけど飲めますか?」
- 第14回「どんなものから焼酎が造られるのか?」
- 第15回「焼酎の銘柄と九州の方言」
- 第16回「かすとり焼酎とは何なのか?」
- 第17回「焼酎と健康について考える」
- 第18回「続・焼酎と健康について考える」
- 第19回「焼酎とみりんの意外な関係」
- 第20回「芋焼酎にもヌーボーがありますっ!」
- 第21回「黒糖焼酎は他の焼酎とはいろいろ違うのだっ」
- 第22回「焼酎を飲む時の器あれこれ」
- 第23回「焼酎を選ぶ時のラベルの見方」
- 第24回「そば焼酎についていろいろ掘り下げてみよう」
- 第25回「焼酎をなにかしらで割って飲む楽しみ」
- 第26回「すだち酎は焼酎じゃない?!」
- 第27回「ビンの焼酎、紙パックの焼酎、ペットボトルの焼酎、それぞれの理由(わけ)~ビン編~」
- 第28回「ビンの焼酎、紙パックの焼酎、ペットボトルの焼酎、それぞれの理由(わけ)~紙パック編~」
- 第29回「ビンの焼酎、紙パックの焼酎、ペットボトルの焼酎、それぞれの理由(わけ)~ペットボトル編~」
- 第30回「痛風でも焼酎なら飲んでいいって本当?」
- 第31回「焼酎に音楽を聴かせるということ」
- 第32回「焼酎で渋柿の渋みが抜けるって本当?」
- 第33回「沖縄県民と泡盛 ~泡盛の真実と現状~」
- 第35回「焼酎の味を決めている成分とは?」
- 第36回「焼酎と水について考える」
- 第37回「焼酎を造っていない都道府県はあるのか?」
- 第38回「焼酎をロックで飲むということ」
- 第39回「変わった原料というより、ちょっと面白い原料からできている焼酎を知ろう」
- 第40回「焼酎をベースとして使う飲み物各種」
- 第41回「実際に焼酎を作る人、杜氏とは」