紳士のための焼酎入門
第16回「かすとり焼酎とは何なのか?」
さて夏本番!
暑くなってきましたね。
そんな中ワタクシちょっと小旅行に島根・鳥取に行ってきました。
そこで見つけてきたのが、今回のテーマにしている「かすとり焼酎」たちです。
「それって何だ?」という方々のために、今回は書いていきますよ~。
早速ですが、「かすとり焼酎」の定義について触れておきましょう。
文字にすると「粕取り」と書きます。
日本酒を造った後に出る酒粕を原料とする焼酎のことです。
実は酒を搾り出した直後の酒粕には、まだ8%ほどのアルコール分が含まれているんです。
だからそれをそのまま蒸留するだけでも、焼酎が生まれるというわけです。
ただし「かすとり焼酎」はもう少し手をかけて造られています。
酒粕に籾殻(もみがら)を混ぜ込んで蒸留するという技法が用いられています。
これが昔ながらの、最も古典的な日本の製法で造られた「正調粕取り」という種類です。
そもそもは酒粕を稲作の肥料にするために不要なアルコールを除去するための手法でした。
それがそのまま田植えの後に飲まれるようになっていったということです。
それに対して最近の主流になっている「かすとり焼酎」はまた別物です。
上記に挙げた「正調粕取り」はかなりクセが強いものです。
なので今時の若者を中心とした新たな焼酎信者には受け入れられないようです。
そこで最近のライトな酒を好む傾向に合わせた「かすとり焼酎」が登場しました。
それが「吟醸粕取り」と呼ばれるタイプの焼酎です。
日本酒には吟醸酒や大吟醸酒という、香り華やかなお酒があります。
それらの酒粕を再醗酵させ、減圧蒸留という方法で焼酎を造るんです。
すると爽やかな香りと上品な味わいを持ったお酒に仕上がります。
それが前述の「吟醸粕取り」です。
現在では多くの清酒蔵が「かすとり焼酎」を造っています。
なのでその焼酎の原料の元となる日本酒を探し出すこともできます。
そして日本酒と焼酎で飲み比べをしてみるなど、異種格闘技戦のような楽しみ方もできるんです。
通常やらないような飲み比べなので、きっと新たな発見があると思いますよ。
是非試してみてほしいお酒の楽しみ方です。
また今回冒頭で私的な旅先として触れた島根県は「かすとり焼酎」の一大産地でもあります。
県内の8割近い清酒蔵が焼酎を造っているんです。
他にも福岡県や熊本県、大分県などの北九州地域や福島県の会津地方などでも多く造られています。
どうやら米作りと日本酒造りが盛んであったことが理由の1つ。
もう1つは蒸留技術が比較的早く受け入れられていた地域であるということが理由とされています。
さらに余談ですが「かすとり」という名前には、また違った一面もあります。
ここまで話してきたものとは全くの別物なんですが、ご年配の方はこちらのイメージだと思います。
それは戦後すぐに日本国内で出回った粗悪な密造焼酎のことです。
当時それを「カストリ」と呼んでいたそうです。
転じて粗悪な紙で低俗な内容の雑誌を「カストリ雑誌」とも呼んでいたそうです。
重ねて言いますが、現在の「かすとり焼酎」とは全く異質のものですけどね。
さてここまで今回は「かすとり焼酎」についてお話ししてきました。
飲んだことのない方も普段から楽しんでいる方も、また是非新たな気持ちで飲んで頂けたらと思います。
飲み比べ…ぜひこの機会に試してみてください。
そういうワタクシもなんか今日は「かすとり」気分になったきましたよ。
それでは今回はそんな「かすとり焼酎」を1本紹介しておきたいと思います。
* 今回のおすすめ焼酎 *
「李白 粕取焼酎」
粕取焼酎・25度・島根県・李白酒造
日本酒ファンなら言うまでもない銘酒「李白」の酒粕を使った珠玉の逸品。
県外で見つけることはほとんどないそうだが、深い味わいとコクが魅力。ロックで粋に。
山口 昌宏
焼酎・梅酒が日本一、GEN & MATERIALを経営。酒全般マニアの元バーテンダー。
株式会社GENコーポレーション社長。
バーテンダーをしている中で、2000年に焼酎と出会いマニアに。
焼酎ブームの火付け役ともされるEN-ICHIで修業後、独立。
現在、東京・渋谷に数店舗を持ち、大阪にプロデュース店有。
昨年、兵庫・高砂に焼酎日本一の店舗「セイエイカン」を開店。
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