Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

「超越的美女」と「日常的女性」の違いとは?「スコットランド国立美術館」展の作品より

至宝の中から綺羅星ばかりがやってきました。
それも、ルネサンスから19世紀後半までまんべんなく駆け抜けるようにピックアップされているという贅沢なラインナップ。
その展覧会とは、「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」です。東京都美術館にて4月22日から始まりました。

「THE GREATS」と展覧会にてうたっているだけあり、ラファエロ、エル・グレコ、ルーベンス、ベラスケス、レンブラント、ヴァトー、ブーシェ、コロー、スーラ、ルノワールなど、西洋絵画の巨匠たちの 作品がずらり。
中でも注目すると面白いなと思ったのは、この巨匠たちが描く女性達です。
「超越的美女」と「日常的女性」の描き分けを観察すると、現代にも通じる演出のヒントになりそうです。

今回は、「超越的美女」としてジョシュア・レノルズ《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》とパリス・ボルドーネ《化粧をするヴェネツィア女性たち》を、「日常的女性」としてディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》とジョン・エヴァレット・ミレイ《「古来比類なき甘美な瞳」》 を見ながら比較してみましょう。

貴族の三人娘は三美神?!

何といっても、この展覧会で「超越的美女」 ぶりが極まっているのが、イギリス貴族の娘を描いた《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》。ジョシュア・レノルズの作品です。

ジョシュア・レノルズ 《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》 1780-81年

見ているだけで自分も優雅に浮世離れできてハッピーになるほど♪
まるで楽園のサロンで永遠に遊んで暮らす事が仕事みたいな彼女たち。。。
永遠の美を手に入れた女神みたい! と思ったら、 やはりかの有名なモチーフ「三美神」 になぞらえているとのこと。
「3人の女性が円形になって手をつないでいるような構図は、三美神の定番。
通常肖像画は、顔がしっかり分かるように正面を向いて描くものですが、この絵の3人は全員が正面を向いているわけではなく、 円形になって、 裁縫の糸で繋がっています」 と教えてくれたのは、 学芸員の髙城靖之さん。激しく納得!
歴史画のために用意されている「グランド・マナー」(理想的で古典的なアプローチに基づいた定型的なスタイル ) で描くことで、 人間の女性を超越的に美しくすることができるのかもしれませんね。

近づいて顔の詳細を見てみましょう。

ジョシュア・レノルズ 《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》 1780-81年(部分)

念入りにお手入れされたお肌は抜けるように白く、 発色の良い赤いチークは 丸くて大きめ。まゆは整っていますがかなり太てくっきり。アイシャドウの色はほとんどありませんがアイライナーはくっきり。目鼻が際立つお化粧をしています。

そして何しろ派手なのがこの髪型。カールしてモリモリに盛ってある上に白い髪粉でグレーヘアーに!現代も、人間離れした魅力を出すために若者がグレイヘアーにするのが流行っているようですが、何か似たものを感じませんか?

目玉焼きを作るザ日常の女性

先ほどの夢のような世界から、 がっつり日常に根を張ったような女性はこちらでしょうか。《卵を料理する老婆》。ディエゴ・ベラスケスの作品です。

ディエゴ・ベラスケス 《卵を料理する老婆》 1618年

歴史的に定番のポーズとかではなく、とにかく実用的に目玉焼きを作っています。顔にクローズアップすると、 化粧気無し!
太陽に照らされるままに日焼けした肌に、特に整えていない眉毛。シャドウやチークなど色物はつけず、しわやたるみも年齢そのままに自然そのものです。
実は、 念入りにメイクアップしている自分の顔も、 すっぴんになるとこんな感じだったりしてハッとする!ここに、 日常的女性のリアリズムを感じました。

ヴェネツィアの娼婦たちの美

娼婦たちもやはり非日常的な存在。「超越的美女」を演出しなければなりません。パリス・ボルドーネ《化粧をするヴェネツィア女性たち》を見てみましょう。

パリス・ボルドーネ《化粧をするヴェネツィア女性たち》1550年頃

右側の若い二人の女性が高級娼婦ですが、まずブロンドの長い髪が緻密に編み上げてあって高貴な感じがしますね。色味は5歳女ですが陰影がくっきりしたアイメイク、チークはほんのりピンクで、口紅が濃いピンクで際立っています。はだけた胸に沿って長い真珠の首飾りがかけられている点などは、スーパーセクシー。
官能的ながら、インテリジェントな雰囲気を漂わせているのは、やはりこの絵が、神話の「ヴィーナスの化粧」の「櫛と鏡」や、聖書の「マグダラのマリア」の「香油壺」などに登場する主題をさりげなく忍ばせているからとのこと。(「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」図録より)
現代の私たちも、古代美術の有名な主題をさりげなく引用して、メイクやファッションを工夫すると「超越的美女」を演出できるのかもしれません。
いつどこでやるのか?!

日常的な美少女

ジョン・エヴァレット・ミレイの《「古来比類なき甘美な瞳」》はどうでしょうか?

ジョン・エヴァレット・ミレイ《「古来比類なき甘美な瞳」》1881年

モデルとなったのは子役俳優ベアトリス・バックストンとわかっているようです。俳優になるだけあって美少女なのですが、服装も髪型も飾り気がないですね。
ロングヘアをバサッとおろし、特に切り返しやカットが凝っているわけでもないシャツをスカートの上に出してお腹も緊張感なく突き出し気味。化粧っ気もないですが、赤い口紅をさらっとつけているようです。彼女も特に神話や歴史的主題を意識して描かれた様子はなく、いわゆる「The Girl Next Door」といった日常感。
でもいいんです!彼女には、生まれつき備わった、無限に澄み渡る瞳があるのですから。

ジョン・エヴァレット・ミレイ《「古来比類なき甘美な瞳」》1881年(部分)

この眼差しを向けられて、とりこにならない男性はいないのでは?

「超越的美女」と「日常的女性」にフォーカスして語ってきましたが、印象派やゲインズバラ、レノルズ、ターナーといった作家達によるイングランド絵画も粒ぞろい♪
とにかく名画たちに囲まれてご機嫌になれる展覧会です

※プレス向け内覧会にて許可を得て撮影しています。

【展覧会基本情報】
スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち
東京会場
会期:2022年4月22日~7月3日 
  ※本展は日時指定予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください
会場:東京都美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園8-36
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
     金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
     ※夜間開室については展覧会公式サイトでご確認ください。
休館日:月(5月2日は開室)
料金:一般 1,900円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 65歳以上 1,400円
※高校生以下無料(日時指定予約が必要です)
※未就学児は日時指定予約不要です

神戸会場
会期:2022年7月16日~9月25日
会場:神戸市立博物館
住所:兵庫県神戸市中央区京町24
電話番号:078-391-0035
開館時間:未定
休館日:月(月曜が祝日の場合は翌平日)
料金:未定

北九州会場
会期:2022年10月4日~11月20日
会場:北九州市立美術館 本館
住所:福岡県北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21-1
電話番号:093-882-7777
開館時間:未定
休館日:月(月曜が祝日の場合は翌平日)
料金:未定

#スコットランド国立美術館 #THEGREATS #美の巨匠たち #東京都美術館 #スコットランド国立美術館展

菊池麻衣子 
【現代版アートサロン・パトロンプロジェクト代表、アートライター、美術コレクター】
東京大学卒:社会学専攻。 イギリスウォーリック大学大学院にてアートマネジメントを学ぶ。ギャラリー勤務、大手化粧品会社広報室を経て2014年にパトロンプロジェクトを設立。

【月刊誌連載】2019年から《月刊美術》「菊池麻衣子のワンデイアートトリップ」連載、《国際商業》アートビジネスコーナー連載
 資格:PRSJ認定PRプランナー
同時代のアーティスト達と私達が展覧会やお食事会、飲み会などを通して親しく交流する現代版アートサロンを主催しています。 美術館やギャラリーなどで「お洒落にデート!」も提唱しています。

パトロンプロジェクトHP:  http://patronproject.jimdo.com/
パトロンプロジェクトFacebook: https://www.facebook.com/patronproject/
菊池麻衣子Twitter: @cocomademoII

インスタグラム:https://www.instagram.com/cocomademois/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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