Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
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紳士のためのアートデート

Vol.10セゾン現代美術館の『恋する現代アート』展                     開催期間: 2016年11月23日(水・祝)まで☆

軽井沢千ヶ滝温泉に程近く、緑に囲まれた美術館がセゾン現代美術館です。

 開け放たれた鉄の門から中へと進むと、木々の隙間から美術館が出現。建築家、菊竹清訓氏による数寄屋造りのような佇まいが自然に溶け込んでいます。庭は、若林奮、イサム・ノグチ、安田侃らの作品が自然と一体となったアート空間で、川のせせらぎに誘われながら散策することができます。この清々しいアート空間で今回展開されているのが『恋する現代アート』展。アートデートにぴったりですね。

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セゾン現代美術館のエントランス

❖展覧会概要❖

 まず、『恋する現代アート』展の看板が黒であることにお気づきでしょうか。展覧会解説は、「恋愛の色は何色?」と始まります。そして、「詩人シェリーが「恋愛の真の本質は自由である」と語りました。「恋愛=自由」それは時に身勝手で一方的、盲目的であり、自己愛の延長に他ならない。だからこそ、何色にも染まらない「黒」なのです。」と続きます。なるほど、と思いながらも、恋愛と聞いて「黒」はなかなか思い浮かばないもの。ユニークな恋のアート展が繰り広げられそうな期待が高まります。ところで、この展覧会を企画したのはどなたなのでしょう?なんと、セゾン現代美術館代表理事の堤たか雄氏自ら企画、キュレーションなさったとのこと。学芸員さんが企画する展覧会とは一味違いそうですね。堤さんご本人に『恋する現代アート』展についてインタビューさせていただきました。

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『恋する現代アート』展を企画した、セゾン現代美術館代表理事の堤たか雄氏

【堤たか雄氏自ら展覧会のキュレーションを実施した経緯】

 美術館の展覧会というと、学芸員が企画するものというイメージが強いので、美術館代表理事の堤氏自らが指揮をして展覧会を実現したということに興味深く感じました。自らキュレーションをしようと考えた経緯を伺うと、「やはり好きだからです」というお答え。子供のころから現代アートが身近にあるという環境に育った堤氏ですが、高校生くらいまではそれほど現代アートが好きだったわけではなかったとのこと。実際現代アートに興味を持つようになったのは、20代前半にフランス留学をした際ポンピドゥーセンターを訪ねたのがきっかけ。それから独学でアートを勉強して、「アートを仕事にしようと決心したのはここ10年くらいの事です。」と堤氏。
 2005年にフランスにアートの社団法人を設立して、何度かキュレーションを担当した際にキュレーションの仕事が「好き」と実感。そのころから、いつか美術館でキュレーションをしたいという思いを持ち続けていたそうです。
 2013年にセゾン現代美術館代表理事に就任した際、今まで難しくて敷居が高いと思われるような企画になりがちだった展覧会内容に「気軽で楽しい」内容を導入したいと堤氏は考えました。そして、誰しも何かしら興味を持っていると思われる「恋」をテーマに自らキュレーションをするというチャレンジに至ったのです!

【色やデザインにわくわくする展示】

 学術的な通例に則った展示よりは、来場者に興味を持ってもらえるようにしたいという堤氏の思いが、中2階や2階の展示室によく表れていると感じました。

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中2階展示室にドーンと現れる鴻池朋子作「ヤマナメクジと月」

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わかる人にはわかる、中村 一美・石川順恵 夫妻の作品が隣合わせの愛のコーナー。

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ヴァカンスを感じる夜のプール。箱嶋泰美「一日の終わりに」

 それにしても、インパクトがあるのが、鴻池朋子作「ヤマナメクジと月」。先月群馬県立近代美術館にて終了したばかりの展覧会・鴻池朋子展「根源的暴力Vol.2 あたらしいほね」に展示されていたのを目にしていた作品なので、びっくり。堤氏が気に入って所蔵することになり、群馬県立近代美術館から馳せ参じた作品だそうです。「意外と足の速いナメクジなんです」と、堤氏もユーモラス。
 「根源的暴力」というタイトルの展覧会を象徴するような作品で、人間の創作活動自体が自然に対する暴力である、というコンセプトに魅力を感じて所蔵を決めたとのこと。これもある種の恋でしょうか?
 これからも、同時代に活躍する若手アーティストの作品を、毎年予算を決めて美術館に所蔵していきたいとの思いを語ってくださいました。若手アーティストにとって、自らの作品に美術館収蔵のチャンスが増えるという意味でも貴重な試みですね。

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李禹煥「線より」を背景に鴻池朋子のヤマナメクジが飾られているという配置にも堤氏のセンスが光っています。李禹煥の作品が、ナメクジに降り注ぐ雨のようにも見えました。

 今回新所蔵で目立っていたのが、門田光雅の「anima」。エントランスの天井から吊るされた縦4メートル、横1メートルの絵画です。サプライズは、表から見た時と、裏から見た時で、絵柄が全く違うこと。1枚で2種類の完成された大作を鑑賞できる、新しく発明された絵画です。10年以上エントランスにあったカルダーのオブジェを思い切って門田さんのカラフルな絵画に変えたところ、「雰囲気が変わったね」とおっしゃるお客さんも多いそうです。
 堤氏曰く、「門田さんには、2007年に一度当館の『アート トゥデイ』という展覧会に展示していただいています。その時から、筆致と色で勝負している画家だなと思って注目してきました。今回は、エントランスに天井から吊るす大作ということで作品制作を依頼しました。生命や魂を意味する「anima」というタイトルのこの作品は、表裏一体の恋というテーマにもぴったりで素晴らしい。父、堤清二/辻井喬、が盟友のような関係を築いたのが宇佐美圭司さんだったが、門田さんと私もそのような関係を築いていければと思います」。堤氏は、アーティストを支援するという考えではなく、一緒にやっていくという考えだそうです。

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セゾン現代美術館に所蔵され、エントランスを飾る門田光雅氏の「anima」

 ここ10年くらいで作品を所蔵したアーティストは、曽谷朝絵、小林正人、依田洋一朗など。中でも今回の「恋」のテーマにぴったりでロマンチックなのが、小林正人作「星のモデル #3-1」。この作品を展示するときは、もう1点のペアの作品「星のモデル#3-2)」がどこかで展示されて互いを想いあうというコンセプト。「星のモデル#3-2」は、現在ヴァンジ彫刻庭園美術館で開催中の「生きとし生けるもの」展で展示中とのことです(2016年11月29日まで)。

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「星のモデル #3-1」

【カフェ・ヤマアラシ】

 おススメの、美術館併設カフェが、カフェ・ヤマアラシ。メニューは、80年代に東京六本木の音楽館「WAVE」の一階で堤氏のお母様が経営していた伝説のカフェバー「レインツリー」で人気だったビーフピラフやカツカレーを始め、素材から全て手作り。また棚には80年代のセゾン文化を彷彿とさせる閲覧可能書籍やポスター、さらには美術館のテーマ「アート、ことば、自然」に則った書籍をセレクトして置いており、こちらは買う事が出来ます。また店名のヤマアラシは堤氏がお好きだからこの名前になったとのこと。
 「ショーペンハウアーの寓話に出てきて、フロイトの精神分析にも使われている「ヤマアラシのジレンマ」というのがあります。棘があるヤマアラシは、適度な距離感を保たないと相手を傷つけてしまう。これも恋愛関係のようだなと思いました。」と由来を教えていただきました。

  ちょうど今回の展覧会タイトルにもぴったりのネーミングだったのですね。

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カフェ・ヤマアラシのエントランス

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カツたっぷりで、大人の味のカツカレーがおすすめ!

それでは、みなさん、good luck! アートと共に楽しいひとときを!

 【展覧会開催概要】
会場:一般財団法人セゾン現代美術館
住所:長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ヶ沢2140
会期:7月24日~11月23日
時間:10:00~18:00(11月は17:00閉館)
※最終入館は閉館30分前
料金:一般1000円(900円)、大高生700円(600円)、中小生300円(200円)
    ()内は団体20名以上の料金
休館日:木曜日(9月22日、11月3日は開館)
          

菊池麻衣子 
【現代版アートサロン・パトロンプロジェクト代表、アートライター、美術コレクター】
東京大学卒:社会学専攻。 イギリスウォーリック大学大学院にてアートマネジメントを学ぶ。ギャラリー勤務、大手化粧品会社広報室を経て2014年にパトロンプロジェクトを設立。

【月刊誌連載】2019年から《月刊美術》「菊池麻衣子のワンデイアートトリップ」連載、《国際商業》アートビジネスコーナー連載
 資格:PRSJ認定PRプランナー
同時代のアーティスト達と私達が展覧会やお食事会、飲み会などを通して親しく交流する現代版アートサロンを主催しています。 美術館やギャラリーなどで「お洒落にデート!」も提唱しています。

パトロンプロジェクトHP:  http://patronproject.jimdo.com/
パトロンプロジェクトFacebook: https://www.facebook.com/patronproject/
菊池麻衣子Twitter: @cocomademoII

インスタグラム:https://www.instagram.com/cocomademois/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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