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敬愛する母に支配されつつ51歳で結婚!ユトリロの後半生は幸せだった?!SOMPO美術館の「モーリス・ユトリロ展」(12月14日まで)にてユトリロの人生を追う

ユトリロと聞いて私が思い浮かべることは2つ。彼が描いた整然としたパリの街並みの絵と、同じく画家であった美しき母シュザンヌ・ヴァラドンです。息子を心から愛しながらも奔放なヴァラドンに翻弄されたユトリロは、10代でアルコール依存症が悪化し、その後精神病院への入退院を繰り返します。しかしながら、アルコール依存の療養の一環として始めた絵画制作から才能が開花して、早くから画家としては母をしのぐほどの名声を得ました。それでも10回以上精神病院への入退院を繰り返しているし、何度か公然猥褻罪で勾留されたり、母に監禁された時期もあったりと、なかなか多難な人生……。私はずっと、ユトリロは晩年までこのような感じで陰鬱な日々を過ごしていたというイメージを持っていたのですが、今回の「モーリス・ユトリロ展」でそれがガラリと変わりました。51歳で結婚してから妻と仲良く暮らし、71歳で亡くなるまで穏やかな日々を送るユトリロの姿を感じることができたのです。なんだか人間が幸せになるポテンシャルを見たような気がして元気付けられました。ということで、意外と幸せそうな後半生に向かうユトリロの人生を、展示作品と共にご紹介したいと思います。

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1883年に画家シュザンヌ・ヴァラドンの私生児として生まれたユトリロ。中学校卒業後、さまざまな職を転々とするなかでアルコール依存症が悪化してしまいます。療養の一環として医者に勧められ、絵画を描き始めた初期の4年間くらいがモンマーニ時代。冬空に枯れた木々から哀愁が漂うような風景画が多く見られました。最初は母に「強制された」絵画ですが、その後メキメキと腕を上げてプロになってしまうところに、ユトリロがヴァラドンから受けた影響の大きさを感じました。

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ヴィルタヌーズの城 1908-09年頃  © Hélène Bruneau 2025

そして、ユトリロが27歳から31歳くらいの期間(1910年から1914年)がいわゆるユトリロの「白の時代」です。おそらく、ユトリロを知る人々が彼らしい作品として思い浮かべるのが、この期間の作品ではないでしょうか。白を基調とした独特なマチエールをもつ一連の絵画で、定規を使ったかのようなまっすぐの線や深く遠くまで遠近法が強調されたパリの風景画が印象的です。今回の展覧会では、石膏や鳥のフンや砂などを混ぜたざらざらとした触感が感じられるような白壁に釘付けになるような作品をたくさん見ることができて貴重です。これらの「白の時代」が当時の批評家や画商に高く評価され、作品も売れて名声も上がるのですが、反面ユトリロの健康状態は日ごとに悪化してしまったと言うのです。そのような状況を想像しながらこの時期の作品を何枚か見てみましょう。
こちらは、「跳ね兎」を意味する、かの有名なキャバレー「ラパン・アジル」です。このキャバレーの経営者がヴァラドンの知人であったためユトリロ自身も足繁く通い、約300枚もの絵を描いたとのこと。

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《ラパン・アジル》1910年 © Hélène Bruneau 2025

左側の建物の白壁と、右側の白壁の色や質感が見事に描き分けられていて心地よい作品です。そして遠くまで木々が続く小道に吸い込まれそう。この頃のユトリロは、パリ近郊のサノワでアルコール依存症の治療を受け、制作意欲を取り戻し、画家としての評価は高まりつつあったそうです。プライベートでは、ヴァラドンが最初の継父と離婚した頃です。
また、白い壁を様々な質感で描き分けたこちらの教会の絵から受けた第一印象は、白いウェディングドレスを着た可憐な花嫁です。

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《可愛い聖体拝受者、トルシー=アン=ヴァロワの教会(エヌ県)》1912年頃 © Hélène Bruneau 2025

キャプションの解説を読むと、絵のタイトルは「ヴァラドンの聖体拝領の日に夢に出た少女に由来する」とのこと。母とユトリロ、どんだけ一心同体なの〜!(笑)。しかしながら、その少女は絵の中に描かれていないので、白く小さな教会の姿に重ね合わされているのではないかという解釈でした。空は結構寒々しい色をしているなと思ったら、ユトリロはこの頃、自主的にサノワの病院に入院したりしていました。結構大変そう……。

そして、こちらの教会の絵は、見るからに殺伐としてどんよりと曇っています。どうしてしまったのでしょう?

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郊外の教会 1920年頃 © Hélène Bruneau 2025

1914年までの「白の時代」は終わり、この絵を描いた1920年は、ユトリロにとって色彩の時代へと至る「第二過渡期」だったそうです。この時期のユトリロは、ピクピュスとサン=タンヌの精神病院の入退院を繰り返し、コルトー街のアトリエで母から監禁される生活を送っていたというのですから、このように陰鬱な絵になってしまうのも無理なさそう。それにしても、30代後半の成人男子を監禁してしまうとは、母強すぎ!
しかしユトリロ、ここまで心身ともに傷んでしまうと、後半生は更にしんどいのではと思いきや……。

ユトリロ51歳となった1935年の結婚を機に一発大逆転!奥さんとはとてもウマが合ったようで、その後の暮らしは順調。結婚した年に描いたこの絵は、爽やかな青空に凛と立つ大聖堂が清々しい。空に浮かぶ多数の雲がユニークな並びですが、祝福するように咲いた白い大輪のようでもあり、花火のようでもあります。

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《シャラント県アングレム、サン=ピエール大聖堂》1935年 © Hélène Bruneau 2025

その奥さんとの出会いは?やはりヴァラドン!2回目の再婚相手と離別して病に伏していたヴァラドンが、病院から旧知のベルギーの銀行家の未亡人、リュシー・ポーウェルを呼び、ユトリロと結婚させようと画策したのだそうです。その女性をしっかり好きになることができるユトリロもすごい!そして改めてヴァラドンの愛と支配力に感服!この後ユトリロは「初めて」母の元を離れて暮らし、ヴァラドンは、その3年後に亡くなります。

ユトリロの結婚後の作品は、軽やかなタッチで色彩も明るい絵が多く見られました。

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アトリエ座 1926年 © Hélène Bruneau 2025

こちらの「ラパン・アジル」の絵は、ぜひ前出の「白の時代」の時の絵と比べてみてください。描いている建物も構図も同じなのに、同じ人物が描いたとは思えないほど楽観的で可愛らしい。

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ラパン・アジル、サン=ヴァンサン通り、モンマルトル 1927年 © Hélène Bruneau 2025

60代のユトリロが写った写真資料を見てもピアノの前で愛犬とくつろいでいたりニースの戸外でタバコを加えて絵を描いていたりして幸せそうです。特に、サシャ・ギトリ監督の映画『もし、パリが我々に語るとしたら」に出演した70代のユトリロは穏やかで、茶目っ気すら感じます。若い頃精神病院への入退院を繰り返した人物とは思えません。生前から画家として高く評価され、全体としては良い人生だったのでしょうか。

仮に現在とても大変な状況にあるとしても、10年単位の長い目で見れば、結果的には良い円熟期を迎えるまでの過渡期でしかないかもしれない。そのような発想をもたらして、前に進む力を与えてくれるようなユトリロに出会えた充実の展覧会でした。

【展覧会基本情報】
タイトル:モーリス・ユトリロ展
会期:2025年9月20日~12月14日
会場:SOMPO美術館
住所:東京都新宿区西新宿1-26-1
開館時間:10:00~18:00(金〜20:00)※入館は閉館30分前まで
休館日:月(10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日、11月4日、11月25日
料金:一般(26歳以上)1800円 / 25歳以下 1200円 / 小学・中学・高校生、障がい者手帳をお持ちの方 無料

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菊池麻衣子 
【現代版アートサロン・パトロンプロジェクト代表、アートライター、美術コレクター】
東京大学卒:社会学専攻。 イギリスウォーリック大学大学院にてアートマネジメントを学ぶ。ギャラリー勤務、大手化粧品会社広報室を経て2014年にパトロンプロジェクトを設立。

【月刊誌連載】2019年から《月刊美術》「菊池麻衣子のワンデイアートトリップ」連載、《国際商業》アートビジネスコーナー連載
 資格:PRSJ認定PRプランナー
同時代のアーティスト達と私達が展覧会やお食事会、飲み会などを通して親しく交流する現代版アートサロンを主催しています。 美術館やギャラリーなどで「お洒落にデート!」も提唱しています。

パトロンプロジェクトHP:  http://patronproject.jimdo.com/
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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

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