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シュルレアリストたちも夢中になったデ・キリコの「形而上絵画」とは?メタフィジカルをリアルに感じはじめたらもう抜け出せない!

「シュール」という言葉は、現実離れした状況を気軽に表すのに便利なので、私もよく使います。この「シュール」の語源をたどると、フランス語の「シュルレアリスム(surréalisme)」。超(sur)現実(réalisme)ですので、読んで字のごとくです。そのコンセプトは、現実世界を超えた潜在意識下の世界を追求した芸術表現に発展しましたが、そのような活動をした人々が、ダリなどのシュルレアリストですよね。
前置きが長くなりましたが、そのシュルレアリストたちの父とも言える存在がデ・キリコだった!ということが今回の「デ・キリコ展」@東京都美術館でとてもよくわかったのです。展覧会は8月29日まで。

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なぜこのジョルジョ・デ・キリコをシュルレアリストたちの父と呼んでみたかと言うと、彼こそが、シュールな絵の前身となる「形而上絵画」を発見したからです。突然分かりづらい言葉の登場ですが、落ち着いて分解していきましょう。形而上とは、metaphysical(メタフィジカル)で、meta(超越的な)とphysical(肉体的な)です。
ですから、私たちの肉体的な経験を超越したような世界を絵にしたのが「形而上絵画」なのだと解釈できます。デ・キリコ本人は、「限りなく神秘的で孤独な、奇妙で奥深い詩情」と表現しています。彼が1910年代にイタリアの広場で突如ひらめいたというこの「形而上絵画」は、当時のカリスマ的評論家であったギヨーム・アポリネールに注目され、シュルレアリスムの創始者であるアンドレ・ブルトンを熱狂させました。世の中がこの大発明に沸いていた頃の作品がこちらです。

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《形而上的なミューズたち》1918年、油彩・カンヴァスカステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与) © Castello di Rivoli Museo d’Arte Contemporanea, Rivoli-Turin, long-term loan from Fondazione Cerruti© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

まず、有機的な人間がマヌカンという無機的なモノに置き換えられているところが、超肉体的。顔の中も空洞なので、思考する脳も抜き取られてしまっているのでしょうか?もはや顔が美しいかどうかもわからないけれど、それでもミューズ(女神)でいられるのでしょうか?見ていると、哲学的思考が刺激されます。実際、「形而上絵画」は、ニーチェの哲学から大きなヒントを得ています。

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《福音書的な静物Ⅰ》1916年、油彩・カンヴァス 大阪中之島美術館 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

縦横斜めの線が錯綜しているので平衡感覚が失われます。私はこの絵の中でどこに立ったら良いのでしょう?そして一番珍妙に思えるのは、地図に描かれた板に張り付いたビスケット。これは食べていいのか?おいしいのか?謎は深まります。

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《予言者》1914-15年、油彩・カンヴァス ニューヨーク近代美術館(James Thrall Soby Bequest) © Digital image, The Museum of Modern Art, New York / Scala, Firenze © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

板張りの屋根の上にイーゼルを立てて絵を描こうとしているマヌカン。イーゼルには透視図法のようなデッサンが描かれていて、その下には、右側から謎の影が伸びてきています。そして絵のタイトルは「予言者」。解読不能なティアラを額に乗せたマヌカンは、メタ(超越的)な思考に浸っているのかもしれません。
これら1910年代のデ・キリコの「形而上絵画」は、世界中に散らばっているので、今回のようにまとめてみることができるのは貴重とのことです。また、シュルレアリストたちとも接触しながら「形而上絵画」を発展させていった1920年代の作品には、投入されるモティーフや色彩も増えてにぎやかに!

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《哲学者の頭部がある形而上的室内》 1926年 油彩・カンヴァス ナーマド・コレクション © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
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《ギリシャの哲学者たち》 1925年 油彩・カンヴァス ナーマド・コレクション © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
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《剣闘士》 1928年 油彩・カンヴァス ナーマド・コレクション © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

20年代のデ・キリコの「形而上絵画」を見ていて気がついたのは、古代ギリシャ・ローマ的なモティーフがたくさん出てくることです。改めて彼のプロフィールを見て納得!
デ・キリコは、ギリシャでイタリア人の両親のもとに生まれました。10代後半で父を亡くしてからは、母、弟とともにヨーロッパを転々としますが、主にイタリアを拠点として活動するようになります。それで、「形而上絵画」の突飛なアイテムの中には、古代ギリシャ・ローマの神殿や彫刻を彷彿とさせるものがよく登場するのだなと合点がいきました。

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《谷間の家具》1927年、油彩・カンヴァス トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館(L.F.コレクションより長期貸与) © Archivio Fotografico e Mediateca Mart© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

頻繁に登場するマヌカンも、古代ギリシャ・ローマを思わせる貫頭衣や鎧を身に付けていたります。

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《考古学者たち》 1927年頃  油彩・カンヴァス 127 × 92cm カルロ・ビロッティ美術館(ローマ)© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

伝統的な絵画技法も極めつつ、「形而上絵画」を発表し続けたデ・キリコは、70代になると、社会的にも経済的にも大きな成功を収めました。そして最晩年の80代には「新形而上絵画」という新たな境地を開きます。これまで自らが描いてきた「形而上絵画」を引用しながら再構築しているのですが、色彩がますます冴えわたり、独特な奇妙さとの戯れをより ビビッドに描き出していて楽しい!実は、この「新形而上絵画」が私にとって超ツボでした。惹きつけられてやまなかった作品をいくつかご紹介します。

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《オデュッセウスの帰還》1968年、油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団 © Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

透き通る水色の海が、生きたままお部屋の真ん中で波を立てています。そこでボートをこいでいるのは、あの古代ギリシャ神話の英雄オデュッセウス!紀元前のトロイア戦争から帰ってくる途中に、時空を間違えてデ・キリコの部屋に迷い込んでしまったのでしょうか。でも彼の顔に戸惑いは見られず、何事もなかったように漕ぎ続けているところがちょっとコミカル。壁にかかっているのは、絵画史上の大発明となったデ・キリコの「形而上絵画」で、中でもイタリア広場をモティーフにした記念碑的なもの。窓の外に見える神殿は、彼が子供のころ過ごしたギリシャで遊んでいた場所でしょうか。デ・キリコは、彼しか見えないはずの頭の中で再生されるイメージを、私たちにも一緒に体験させてくれる魔術師みたいな人ですね。

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《イーゼルの上の太陽》 1972年 油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団 © Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

わーっ、ついに太陽をイーゼルの上に捕まえてしまった。空の太陽はふてくされて焦げてしまい、代わりに三日月が照っています。ギリシャ神殿の柱はバタバタと倒れ、何か恐ろしいことが起こっているようにも見えますが、部屋の中は別世界。巨匠デ・キリコは、スイッチ一つで太陽をつけたり消したりできる神のような存在になったのかもしれません。

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《ヴェネツィアのホテルの一室における神秘》 1974年 油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団 © Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

ちょっと変わったホテルに足を踏み入れたときに、映画や演劇の登場人物になったような気分になる事はありませんか?そんな感覚を思い起こさせてくれる1枚。それにしても向こうのほうにいる腰巻だけを身に付けた白い男性は、彫刻になってしまったルシウス(漫画テルマエ・ロマエの主人公)かしら?
このような調子で鑑賞していくと、「形而上絵画」の世界から抜け出せなくなりそうですちょっと怖い(笑)。デジタルが溢れる現代は、ありえない状況がリアルに感じられるメタフィジカルな世界がバーチャル上では 比較的簡単に作れるのかもしれません。ですが、デジタルがここまで発展していなかった半世紀以上前に、デ・キリコが絵の中で実現したアナログなメタフィジカル世界は、「絶対ありえないでしょ」とわかりながらも敢えてハマっていくプロセスが楽しい。画家と私たちが共犯者となって「形而上絵画」に没入する感覚!ぜひ体験してみてください。

【展覧会基本情報】
デ・キリコ展
会期:2024年4月27日~8月29日
会場:東京都美術館
住所:東京都台東区上野公園8-36
電話番号:050-5541-8600
開室時間:9:30〜17:30(金〜20:00)※入室は閉室の30分前まで
閉室日:月、5月7日、7月9日~16日 ※ただし、4月29日、5月6日、7月8日、8月12日は開室。

※写真はプレス向け内覧会にて許可を得て撮影しています。

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菊池麻衣子 
【現代版アートサロン・パトロンプロジェクト代表、アートライター、美術コレクター】
東京大学卒:社会学専攻。 イギリスウォーリック大学大学院にてアートマネジメントを学ぶ。ギャラリー勤務、大手化粧品会社広報室を経て2014年にパトロンプロジェクトを設立。

【月刊誌連載】2019年から《月刊美術》「菊池麻衣子のワンデイアートトリップ」連載、《国際商業》アートビジネスコーナー連載
 資格:PRSJ認定PRプランナー
同時代のアーティスト達と私達が展覧会やお食事会、飲み会などを通して親しく交流する現代版アートサロンを主催しています。 美術館やギャラリーなどで「お洒落にデート!」も提唱しています。

パトロンプロジェクトHP:  http://patronproject.jimdo.com/
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菊池麻衣子Twitter: @cocomademoII

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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