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ぜんぶ重要文化財!指定プロセス秘話も楽しめる東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」@東京国立近代美術館

展示作品すべてが重要文化財という史上初の展覧会が東京国立近代美術館にて始まりました。東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」です(2023年5月14日まで)。

その見た目の豪華さもさることながら、なかなか通常は明かされることのない、重要文化財に指定されるまでの秘密も解き明かされているのでのめり込ませてくれる展覧会です。

それにしても、ぜんぶ重要文化財って、何がすごいのでしょうか?

重要文化財の75%が集結(明治時代以降の絵画・彫刻・工芸作品に限る)

そもそも、これまで(2022年11月時点)に重要文化財に指定された作品の件数は10872件で、それに対して国宝は906件です。ところが、明治時代以降の絵画・彫刻・工芸作品に限ると国宝に指定されたものは0件で、重要文化財が68件です。ということは、明治時代以降の作品にとっての最高峰の指定は重要文化財ということになります。
そして今回の展覧会には、その中から51点が展示されているので、重要文化財の75%が日本中から集結していることになります。すごいですよね!

ひねりの効いた観点を教えてくれた

この展覧会で目からウロコだったのは、この名品たちを制作された時代順に鑑賞するだけではなく、「重要文化財に指定された順」に見ていくと、近代日本美術の評価付けが固定的ではなく現在進行形だということがわかったことです。これは、「この展覧会で一番重要とも言える」と今展担当研究員で東京国立近代美術館副館長の大谷省吾さんが曰く「重要文化財指定年順年表」のおかげです。この年表は、会場内に大きく展示してありますので、鑑賞前にざっと見たり、鑑賞中にも気になる作品があったらこの年表内のポジションを確かめにいったりしながら参照することをお勧めします。

重要文化財指定年順年表 展示風景より

ここで基本を押さえておきましょう。

◆重要文化財とは?◆
重要文化財は、1950年に公布された文化財保護法に基づき、日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料などの有形文化財のうち、製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたものです。そのうち特に優れたものが「国宝」に指定されます。

なるほど~。さもありなんといった感じですが、大谷さんは、「何を持って『貴重』とみなすのかが評価の難しさであり、何が指定されたかをたどっていくと、評価のポイントが少しずつ変わってきていることが見えてくる」ということに注意を促してくださいました。

例えば、先ほどの重要文化財指定年順年表を見ていくとこんな箇所があります。1983年から1998年の16年間、一件も指定されることなくぽっかりと穴が開いているのです。

展示風景より
展示風景より(赤い円は筆者が記入)
展示風景より

大雑把な傾向としてですが、この大きく穴の空いた期間より前は、「西洋の造形思考をどれだけ巧みに作品化できているかという観点」から作品が選ばれていて、期間が空いた後の基準は、「より多様化した観点」が取り入れられたと言えるようです。

同じ作家を追うと少し見えてきて、例えば、黒田清輝の《舞妓》は1968年に指定されていますが、《湖畔》は31年後の1999年に指定されています。

黒田清輝《湖畔》 重要文化財 1897(明治30)年 東京国立博物館蔵 展示期間:4月11日~5月14日

黒田清輝《舞妓》⇒https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/199380  
(文化遺産オンラインより)

「舞妓」と「湖畔」の2点が同時期に候補に挙げられながら、「舞妓」だけが選ばれたのは、「舞妓」の方が、西洋的な目から日本をとらえたエキゾチックな表現になっていたのに対して、「湖畔」はいかにも和風だったという理由のようです。
ところが30年を経て、「湖畔」が指定されたときには「『日本的な』油彩画作品として、1つの典型を完成した」(「重要文化財の秘密」展の図録参照)と評価されたというのですから面白いものです。

30年の間には国際化も進み、日本人の価値観や、その中での美術の評価の仕方もずいぶん変わったからこその転換なのでしょう。そして、現代の私たちにとってどちらがメジャーな作品かといえば、郵便切手にも採用されたことがある「湖畔」と言えそうな点にも逆転現象を感じます。

この「湖畔」との関係性で重要文化財指定に至ったという興味深い作品が、萬鉄五郎の《裸体美人》です。

萬鉄五郎《裸体美人》1912(明治45)年  重要文化財 東京国立近代美術館蔵 [通期展示] 展示風景より

東京美術学校の卒業制作として師である黒田清輝への反抗精神から生み出された作品という文脈にはまったために、前年(1999年)に指定された黒田の「湖畔」に続いて指定されたそうです。この作品が制作された1912年には、当時の卒業生19名中のうち16番だった作品で、もっぱら「ひどい絵」と評されていたようなので、ずいぶん評価軸が変遷したといえます。

展示風景より(赤い円は筆者が記入)

重要文化財の指定は日本画から始まった

ここまで洋画の作品エピソードをご紹介してきましたが、実は、明治以降の美術作品の重要文化財指定は日本画の分野から始まっています。そのような理由で、今展も日本画の展示コーナーから始まります。指定が始まった1955年に、最初に認定された狩野芳崖の《不動明王図》がトップランナーです。

展示風景より、狩野芳崖《不動明王図》(1887)東京藝術大学、3月17日~4月2日展示

この最初期には「洋画に反抗して後の世界のものを日本画にも示し得ると腕を張る」ことと「洋画の長を取る」という2面性があることが評価されたそうです(「重要文化財の秘密」展の図録参照)。
要するに、「西洋の絵画にまさる日本画の境地を切り開く」と同時に、「洋画の良いところを巧みに取り入れる」ことが重要だったのですね。

菱田春草の「黒き猫」も、そのような評価基準にバッチリ合っていたようで、指定制度が始まった翌年の1956年に早くも重要文化財に指定されています。ちょっとアールヌーボーのような背景に良い感じでなじみ、黄色い目で見つめてくるこの用心深そうな黒猫は、現代でも大人気。
「重要文化財の秘密」展のグッズコーナーでも、おそらく一番たくさん登場するモティーフです。もしかしたら作家が意図したこととも、重要文化財に指定された評価基準とも異なる理由かもしれませんが、100年の洗礼を経て人気を博すほどの普遍性があるともいえます。

菱田春草《黒き猫》1910(明治43)年 重要文化財  永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)[展示期間:5月9日~5月14日]
展示風景より(赤い円は筆者が記入)

明治時代以降の美術品は、絵画だけではなく、彫刻や工芸も重要文化財に指定されていて、今展にも展示されています。同じく「重要文化財指定年順年表」を参照しながら鑑賞すると、興味深い秘話が色々と浮かび上がってきます。

全体を通して、「この中から国宝が出るかもしれない」とか、「まだ戦後のもので重要文化指定はないけれど、第一号は誰になるかな?」などと思いを巡らせながら鑑賞したところエキサイティングでした。
そして、これからは写真、映像、インスタレーションなど新しいジャンルの作品も入ってきそうですし、50年後の重要文化財展(できたら行きたい(笑))にはもしかしたら草間彌生さんの作品が見られるかも!などと想像は広がるばかり。
誰もが発信者になれる時代ですから、ひょっとしたら私たちのSNSの感想が現代作家たちの将来の重要文化財指定に影響を及ぼすことがあるかもしれません。 
たまにはそんなふうに考えながら鑑賞する日があっても良いですよね!

【展覧会基本情報】
タイトル:東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」
会期:2023年3月17日~5月14日
会場:東京国立近代美術館1F 企画展ギャラリー
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://jubun2023.jp/
開館時間:9時30分~17時、金曜・土曜は20時まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日 ※ただし、3月27日、5月1日、8日は開館
料金:一般1,800円、大学生1,200円、高校生700円

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菊池麻衣子 
【現代版アートサロン・パトロンプロジェクト代表、アートライター、美術コレクター】
東京大学卒:社会学専攻。 イギリスウォーリック大学大学院にてアートマネジメントを学ぶ。ギャラリー勤務、大手化粧品会社広報室を経て2014年にパトロンプロジェクトを設立。

【月刊誌連載】2019年から《月刊美術》「菊池麻衣子のワンデイアートトリップ」連載、《国際商業》アートビジネスコーナー連載
 資格:PRSJ認定PRプランナー
同時代のアーティスト達と私達が展覧会やお食事会、飲み会などを通して親しく交流する現代版アートサロンを主催しています。 美術館やギャラリーなどで「お洒落にデート!」も提唱しています。

パトロンプロジェクトHP:  http://patronproject.jimdo.com/
パトロンプロジェクトFacebook: https://www.facebook.com/patronproject/
菊池麻衣子Twitter: @cocomademoII

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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