Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのアートデート

ヴェネチアからバーゼルへ!アートの祭典はつながっている。アート記2019 【後編】サン・モリッツ経由でアートバーゼルに到着。政治的なテーマに込められた希望とは?

イタリアからスイスへと向かってます。【前編】からの続き。2019年6月に、ヴェネチア・ビエンナーレとアートバーゼルを体験する旅に出ました。約10日間のアート体験を旅行記としてお届け中。真面目オモシロいアート旅にお付き合いください!
 
アートバーゼル2019を目指して前進。 
  ヴェニスからミラノ経由でティラーノ駅へ。ここから、世界遺産ベルニナ急行に乗ってサン・モリッツに向かう。駅近くのレストランでパスタランチを食べてから乗り場へ。赤くてスタイリッシュな電車が待っていました。やはり、登山やスキーが趣味なのかなといったいでたちのお客さんが多く、私達はイギリス人老夫婦と向い合せの席に。天井まで広がる窓が特徴の車内からは、標高が上がるにつれて変化する山の景色が大画面に展開する。その高低差は1,800m!

ティラーノ駅に待っていたベルニナ急行

窓が大きい車内

山頂近くの風景は、エメラルド色に透き通る湖と雪山がしずかに広がっていて神秘の世界。

約2時間半乗ってサン・モリッツに到着。360度雪山に囲まれた上品な街。
     
泊まったCRYSTALホテルは、お部屋がかわいい。スパも無料でついて、おすすめ!
 
ホテルのすぐそばに、オードリー・ヘプバーンも通ったというカフェ「ハンゼルマン」が!お土産のチョコレートなどを買う。
      
夜は、本場のチーズフォンデュを食べようと、近くのレストランへ。ギャルソンはシルヴェスター・スタローンのようなゴツイ感じだけど、柔らかな物腰でやさしい。「温野菜はありますか?」と聞くと「あります!」と自信たっぷり。でもその温野菜とは大量のゆでたジャガイモ。。。ちょっと違うけどまあ、いいか。チーズフォンデュは塩味しっかりでパンとジャガイモにぴったり。
    
CRYSTALホテルの朝食はシンプルながら丁寧に作ってあっておいしい。白っぽいクロワッサンもGood!

1泊して、午前中にサン・モリッツを発つ。絶景の橋を渡り、バーゼルへ! 

【アートバーゼル①:メインのアートフェア会場】
世界最大の国際アートフェア「アートバーゼル(Art Basel)」は、世界中から美術商やバイヤー、コレクターが集まる美術品のマーケットとして名を馳せている。町中や美術館などを活かした無料展示をダイナミックに展開しているのも特徴。誰もが参加できるレセプションパーティーもあちらこちらで連日開催。2019年は6月13日から16日まで。
アートバーゼルは、大きく3つのパートで構成されています。①コマーシャルギャラリーがブースを連ねるアートフェア会場②巨大サイズの作品を展示する「Unlimited」会場③バーゼルの旧市街を中心に屋内外展示を展開するパークール「Parcours」。

 
アートバーゼルのエントランス。12日の内覧会から賑わっている。

まずは、プレスパスをゲット。これで出入り自由。

初日は①を取材。日本からは3軒のギャラリーが出展していたので真っ先に訪ねる。

 香港・バーゼル(香港で開催するアートバーゼル)には日本人客が多いと聞いていたけど、バーゼル・バーゼル(バーゼルで開催するアートバーゼル)ではほとんどみかけず。やっと東京画廊+BTAPの山本豊津氏に出会った時にはホッとした! 
 オレンジ色のネクタイ姿で颯爽と現れた山本氏に早速インタビュー。1960年代からの「具体」と「もの派」を中心テーマに、田中敦子、元永定正、李禹煥、菅木志雄ら関連するアーティストの作品をすっきりと展示。「彼らの作品には、安定的に良い反響がある」とのこと。バーゼル経験の豊富な山本氏の落ち着いた物腰を頼もしく感じる。

東京画廊+BTAPの展示風景。
      
『2階にタケニナガワさんとタカイシイさんが出してるよ』と山本さんから教えていただき、上へ走る。 

 タカ・イシイギャラリーは、60年代から現代までの写真をリズミカルに展示。石井孝之氏のコメントが素晴らしい!「Having participated in Art Basel for the last ten years, I have seen how the fair has diversified with young collectors in their 20s and 30s travelling to Basel from all over the world. Art Basel is a fair beloved across generations.」訳⇒「ここ10年間アートバーゼルに参加して、20~30代の若いコレクターなど世界中からバーゼルにやってくるコレクターが多様化してきた様子を見てきました。アートバーゼルは、あらゆる世代から愛されるアートフェアです。」
 
約40人の日本人写真家たちの作品の中には、蜷川実花のものなど見慣れた作品も

パフォーマンス作家・荒川医/ Ei ArakawaのLED作品が異彩を放っていた。 
タケニナガワは、水彩画、インスタレーション、ビデオアートと種類豊かな展示。大竹伸朗の新旧作品が新鮮。

 タケニナガワの展示風景。Charlotte Posenenskeのインスタレーションと大竹伸朗の絵が面白い空間を生み出していた。 

 日本人アーティストでは、名和晃平のかわいい作品が目に飛び込んでくる。出品していたのは、ドイツはハンブルグのVERA MUNROギャラリー。小品ながら、オシドリの剥製が透明球体に包まれている作品が、あまりにも愛らしくて目がハートに!

名和晃平の、この魅力たっぷりな作品は、既に売れていた。。。 
 ヨコハマトリエンナーレで見た蛍光色のクマの作品群を発見して近づくと、そこはフランスのギャラリー・ぺロタン。

六本木にオープンしたギャラリー「ペロタン東京」でも印象的だったパオラ・ピヴィのホッキョクグマシリーズ。この色と躍動感は天下のアートバーゼルでも目立つ。「ハロー」と呼び掛けた。

ジャン=ミシェル オトニエル@ペロタンも、新たな展開を見せていた。作品をかけ替えているところをみると売れているもよう。
       
ぺロタンブースのこちらのコーナーは、何か侵しがたい神聖さを帯びていた。顔は変顔なのだけど。。。

透明感のある作品にみとれていたら、「この作品には本物の芝生が入っているんだよ」と話しかけてくれたGalerie nächst St. Stephan Rosemarie SchwarzwälderのSamuelさん。

その他にも気になる作品がいろいろ!

【アートバーゼル②:アートフェア出品作家達が大型作品を展開する「Unlimited」会場】
通常のアートフェアのブースでは展示不可能な大規模な彫刻や絵画、映像、インスタレーション、ライブ・パフォーマンスなどを展示するのがUnlimited/アンリミテッド。「購入するとしたら?」という観点よりは、美術館を訪れるような感覚で楽しめる。キュレーターは、ハーシュホーン美術館・彫刻庭園(ワシントンD.C.)のジャンニ・ジェッツァー氏/Mr.Gianni Jetzer。テーマからして「The Political as Artistic Mise-en-scene」と思いっきり政治性を帯びていることに関してインタビューしました。

Unlimited会場の入口と、のっけから特大展示を感じさせるスペース感。

 私は個人的に、アートは政治色をあまり入れず、創造的に純度が高い方が魅力的なのではないかと思っているので、ちょっと挑戦的な質問になってしまったかも。丁寧に答えてくれたジャンニさんに感謝!

ジャンニ氏への質問1. 「アンリミテッド2019のキュレーターとして、アーティストが見る現代の政治経済状況と、一般の人々が見るそれとの一番大きな違いはなんだと思いますか?」(As the curator of Unlimited 2019, what did you consider as the biggest difference between the way artists see the contemporary political and economic situation versus the way general public sees them?)

ジャンニ氏/Gianni:「Some of the art included in this year’s Unlimited reflected political reality without being activism. Art can mirror any form of reality and at once keeping its distance. That can sometimes create confusion, which I think is an interesting side effect.」訳⇒「今年のアンリミテッドのアートの中には、行動主義的にならずに政治的現実を反映しているものもあります。アートは、距離を保ちながら現実を鏡のように映し出すことができます。時にそれが混乱を引き起こすので、私はそれが面白い副作用だと思っているのです」。

アートが政治に対して巻き起こす副作用とは興味深いですね。
 
音も規模もひときわ目立っていたDaniel Knorrの《Laundry, 2019》からはそのような副作用を引き起こしそうな感じがする。車型に組み立てられたキャンバスに洗車機が染色すると、なんとも官能的な車型絵画ができあがる。工業化を批判しているようでもあり、賛美しているようでもあり、困惑させつつも素通りさせない、いたずらっ子のような作品。 

ジャンニ氏への質問2. 「政治経済的現実をあからさまに見せる事で、アンリミテッド2019のアート作品は、特にアートバーゼルの観客にどのような影響を及ぼすと思いますか?」( Through our prevailing political and economic reality, what kind of effect do you think artworks at Unlimited 2019 have particularly brought to audiences of Art Basel?)

ジャンニ氏/Gianni:「Art can of course not save the world, but it can create common images to be discussed and debated.」訳⇒「アートはもちろん、世界を救うことはできないが、議論すべき共通のイメージを創り出すことができます」。

なるほど!それがとてもよくわかる作品は、こちら。
 
Andreas AngelidakisのPost-Ruin (Pink), 2019。ピンク大理石でできた彫刻に見えるのですが、実際はふかふかのビニールでできていて、観客は好きなように動かしたり、乗ったりできる。作家は「このようなユニットは、コンピューター装置のように必要に応じて変更したり自動化したりできる」と言う。社会状況も同じような感じで、フィジカルに作り変えられるということを伝えているみたい!

ジャンニ氏への質問3. 「アンリミテッド2019のプレゼンテーションとして一番目立った特徴はなんですか?」( What was the most outstanding characteristic in the presentation of Unlimited 2019?)

ジャンニ氏/Gianni:「We for sure had works that were going far in comment political reality. Recent politics became an issue that were openly put in display, might it be the #MeeToo movement, the American president, or racism.」訳⇒「政治的現実にかなり踏み込んだ作品もありました。最近の政治は、オープンに展示されるような問題にもなってきたのです。#MeeToo運動や、アメリカの大統領、人種差別などがそのような問題にあたるでしょう。」

ジャンニ氏への質問4. 「アンリミテッド2019には日本発のアートがあまり見られなかったようです。日本人アーティストも候補としてご興味はありますか?」(It seems there were not so many Japanese arts in Unlimited 2019. Were any Japanese artists taken into consideration?)

ジャンニ氏/Gianni:「Always. We had great Japanese artists in the past, I am thinking for example of Chiharu Shiota, who contributed two amazing pieces during my tenure. Artists cannot always make new work for Unlimited and sometimes there are no large scale works available, so you cannot guaranty the inclusion of artists form a certain country.」訳⇒「いつもあります!過去には、塩田千春さんのような素晴らしい日本人アーティストに出品していただいたことがあります。私が担当した期間にも2点展示しました。アーティストがいつでもアンリミテッド用の新作を制作できるとは限らないので、特定の国から必ず出していただくといったことが難しいのです。」 

ジャンニ氏から塩田千春氏の名前が出て嬉しいですね。ちょうど森美術館で塩田氏の過去最大級の個展「魂がふるえる」が開催中です(2019年10月27日まで)。この機会にぜひ!

 
森美術館で開催中の『塩田千春展:魂がふるえる』展示風景。HP: https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/index.html

その他、気になった作品はこちら。

化粧品型などの巨大なキャンバスに描かれた絵画インスタレーション。女性のヌードのようになまめかしい?
 
蚊帳のような素材感の家から出たり入ったりできる作品。なんか、ノスタルジック。他の人々がこの半透明の薄い家から出入りする様子はファンタジーみたい。 

【アートバーゼル③:バーゼルの旧市街を中心に展開するパークール「Parcours」】
 パークールは、今年で10年目。キュレーターは、SALTS(ビルスフェルデン、スイス)を主宰するサミュエル・ロイエンベルガー氏。アートフェア1Dayチケットが約6,000円である一方、パルクールは、屋内外にかかわかず観覧無料。サミュエル氏は、『美術館も含めて無料のこの企画は、アートの民主化も目的としている』とのこと。貧富の差や民族の多様性が激しい欧米では、誰もが楽しめるようにと『アートの民主化/democratization』が昔から重要なテーマの1つ。それをハイクオリティーなレベルかつ爽やかなスタイルで実現している企画。
  
町の散策も兼ねて世界屈伸の最新アートを楽しめるのが嬉しい!
  
広場のアートは、人々が作品とともに戯れる事も作品の一部

【ヴェネチアとのつながり】
さあ、みなさんはここで、前編に出てきたヴェネチア・ビエンナーレのテーマ「May You Live in Interesting Times」とアートバーゼルに通じるものを何か感じますか?
私は「シェア=共有」だと思います。世界中のトップアーティスト達が腕によりをかけた作品をみなでシェアするので、その体験のクオリティーが高いのがポイント。それぞれの受け取り方は違うけど、世界中から集まった人々が同じ場でアートをシェアするってある意味ミラクル。そして今回、両方のアートの祭典からアート達が呼びかけていたのは、「価値観も違うし、大変なこともあるけど、やっぱりみんな一緒にハッピーに暮らしたいよね」ということだったと思います。

【バーゼルから約1時間で世界遺産のベルン旧市街へ】
 バーゼルに来たら、1983年にユネスコの世界遺産に登録されたベルン旧市街を訪れるのがおすすめ。中世の町並みがそのまま残っていて、ゆったりと流れるアーレ川とマッチした風景は絵本のよう。それにしても、ベルンという名前は熊(独: Bär)にちなんでいるとは知らなかった。
確かに、ベルン市の紋章が熊だし、中心部にある「ベーレンパルク(熊公園)」には、本物のクマさんが!

アーレ川沿いの土手から見える珠玉の眺望。土手にある熊公園で寝ている熊を発見!

 熊公園のほど近く、ニーデック橋東側にあるクレステルリ ヴァインカフェ/Klosterli Weincafeは、とてもおススメ。2014年「ベスト・オブ・スイスカストロ」のトレンド部門賞に選ばれたとか。ヌーベルキュイジーヌといった感じで、キュウリとメロンの冷製スープと、がっつりインスタ映えする牛肉たっぷりハンバーガーがおいしかった。屋外のテラス席には野生の鳥たちがやってきて、「かわいい」と思っていたら、手に持っていたパンを奪い去っていったのでびっくり!たくましいな~。
      
高さ100mで、スイス最大の大尖塔を持つベルン大聖堂に登ってアートの旅をしめくくります。
See you again soon! 

#アートバーゼル2019 #ヴェネチアビエンナーレ2019
#アートバーゼル #ArtBasel #ヴェネチアビエンナーレ #veneziabiennale #アート旅行記

 

菊池麻衣子 
【現代版アートサロン・パトロンプロジェクト代表、アートライター、美術コレクター】
東京大学卒:社会学専攻。 イギリスウォーリック大学大学院にてアートマネジメントを学ぶ。ギャラリー勤務、大手化粧品会社広報室を経て2014年にパトロンプロジェクトを設立。

【月刊誌連載】2019年から《月刊美術》「菊池麻衣子のワンデイアートトリップ」連載、《国際商業》アートビジネスコーナー連載
 資格:PRSJ認定PRプランナー
同時代のアーティスト達と私達が展覧会やお食事会、飲み会などを通して親しく交流する現代版アートサロンを主催しています。 美術館やギャラリーなどで「お洒落にデート!」も提唱しています。

パトロンプロジェクトHP:  http://patronproject.jimdo.com/
パトロンプロジェクトFacebook: https://www.facebook.com/patronproject/
菊池麻衣子Twitter: @cocomademoII

インスタグラム:https://www.instagram.com/cocomademois/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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