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紳士のたしなみ

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新国立劇場オペラ『ドン・カルロ』

2021年5月に新国立劇場で開催されていたヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』は、歴史的背景がわかると一気に面白くなる。スペインの宮廷が舞台で、登場人物はほとんどが実在の人物だ。

まずはオペラのあらすじ

カトリックの国王フィリッポ2世は、領土であるフランドルでプロテスタントを弾圧していた。フィリッポ二世は、フランスとの和平の条件として王子ドン・カルロと婚約していたエリザべッタをめとることになり、2人が今も通じているのではないかと疑っている。ドン・カルロは、親友ロドリーゴから王女となったエリザベッタへのかなわぬ思いをたちきりフランドルを統治するように勧められるが、プロテスタント火刑の日に、それを国王に申し出ると拒絶され、剣を抜いたために反逆罪でとらえられる。一方で王子に横恋慕する女官エポリ公女は、嫉妬からエリザベッタを陥れる。ロドリーゴは王子の身代わりになるが、王子もまた王によって逮捕される。そこにフィリッポ二世の父で神聖ローマ帝国の皇帝カール五世の亡霊が現れ、カルロを黄泉の国に連れ去るのだった。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

歴史的には1560年代スペイン帝国絶頂期の頃の話である。

スペイン国王、ハプスブルグ家のフェリペ2世(オペラの中ではフィリッポ2世)は、フランスとの講和の証として結んだ条約でフランス王女イザベル・デ・ヴァロワ(オペラの中ではエリザベッタ)をめとっている。その王女が息子の王子ドン・カルロス(オペラの中ではドン・カルロ)と婚約していたことは事実だ。

ただ、ドン・カルロスと相思相愛だったわけではなく、実際にはフェリペはエリザベートにぞっこんで、贅沢好きでドレスや調度品に目がない彼女に好き放題させている。イザベル王妃は、2人の王女を産んだが23歳の若さで亡くなってしまい、フェリペ2世は幸福な家庭生活から一気に孤独に追いやられた。息子のドン・カルロスは、歴史では、父に反乱を企て獄死している。

フェリペ二世は、カトリックによる国家統治を理想とし、プロテスタントを弾圧し、オペラにも登場した「異端審問」で多くを処刑している。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

さて、オペラの舞台に戻ろう。十字架が縦横無尽に動き回るパネルを用いた舞台は、斬新で洗練されている。演出のマルコ・アルトゥーロ・マレッリがフィリッポ二世が建てた宮殿を訪れた時のイメージから作り上げた。

予定されていたキャストが何人か来日せず、代役になっている役柄もあるが、まずはドイツで活躍中のロドリーゴ役の高田智宏。さすがに海外で鍛えられているだけのことはある。代役で出演したエリザべッタ役の小林厚子もドラマティックな歌声を響かせた。ドン・カルロ役はジュゼッペ・ジパリ、父フィリッポ二世は妻屋秀和、エポリ公女はアンナ・マリア・キウリ。そして指揮はパオロ・カリニャーニ。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

心に残ったのは、国王の悲痛なアリア「ひとり寂しく眠ろう」とエポリ公女が自分の美貌と運命を呪った「酷い運命よ」。「一人寂しく眠ろう」は、妻が自分を愛してくれず孤独だというところが、「酷い運命よ」は自分があまりに美貌なのがいけなかったのね、という歌詞が、なんだかおかしかった。

新国立劇場、来月は「カルメン」(7月3日、6日、8日、11日、17日、19日)アレックス・オリエの新演出で上演される。
こちらもお楽しみに。

 

*記事・写真の無断転載を禁じます。*2021年6月8日現在の情報です。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
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もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

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