Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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新国立劇場 オペラ『トスカ』のカヴァラドッシ役のメーリが最高です

新型コロナウイルスが世界に蔓延し、常に不安と怖れの中で生きることを余儀なくされているが、今までとは違う文化の次元に来たのかもしれないという感慨を深めた。音楽が、歌が、オペラが、すべて今しかない輝きを放ち死を見据えた尊いものとして、劇場中を覆うかのようであった

世界屈指の人気テノール、フランチェスコ・メーリのカヴァラドッシの歌声に心が震える。一流歌劇場で引っ張りだこの彼の艶やかで力強い声を生で聴けて本当に良かった。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

指揮はイタリア・オペラで絶大な信頼を集めるダニエレ・カッレガーリ。イタリア感満載である。アントネッロ・マダウ=ディアツの演出は2000年に新制作された伝統的でオーソドックスな衣装と舞台が繰り広げられる。トスカはキアーラ・イゾットン。スカラピアはダリオ・ソラーリ

プッチーニの人気オペラ「トスカ」は、ナポレオンがヨーロッパを席巻していた1800年6月17日~18日のローマと日付けまではっきりしている。この3日前、ナポレオンのフランス軍が北イタリアのマレンゴでオーストリア軍に勝った。これが「マレンゴの戦い」である。当時、ローマはナポレオンが建国したローマ共和国が滅び教皇国家が復活していたのだが、教皇が不在で実権を握っていたのはナポリ=シチリア王国であった。警視総監スカルピアはナポリ王国から派遣され、共和国派の一掃を命じられ民衆から恐れられていた。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

歌姫トスカは、反体制派でナポレオンを支持する画家のカヴァラドッシと恋人同士。カヴァラドッシは、政治犯で友人のアンジェロッティが脱獄して逃げてきたのを知りかくまうことを決意する。スカルピアは、以前から我が物にしようと狙っていたトスカを利用し、カヴァラドッシをとらえ、彼の命を脅迫材料にしてトスカに迫る。トスカは、スカルピアにカヴァラドッシを助けることを約束させ、出国する許可証を書かせたうえでスカルピアを刺し殺す。しかし、見せかけの処刑だと聞かされていたのに、カヴァラドッシは銃殺されてしまう。トスカは身を投げるのであった。

『トスカ』の中には、名曲が散りばめられている。まずは、冒頭のカラヴァドッシのアリアでトスカへの愛を歌い上げる「妙なる調和」。メーリの声で一気に物語に引き込まれる。ここは聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会だ。教会の中での場面転換後の舞台美術が素晴らしい。絢爛豪華である。

スカルピアが執務をとるファルネーゼ宮殿でトスカのアリア「歌に生き、愛に生き」。なぜ誠実に生きてきたこの私がこんな目に合うのかと切実に歌い上げ涙を誘う。

撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

聖アンジェロ城で、カヴァラドッシの告別のアリア「星は光りぬ」では、私はいままでこれほど命を尊く思ったことがないと歌う。まるで今の私たちの心境だ。

どこもイタリアで実在する場所ばかりなので、いつかきっとその場所を訪れたいと今はかなわぬ夢を描く。

客数は半分。当初の予定通りのキャスト・スタッフで、2週間の待機期間をとっての公演だ。休憩時間の飲食はなし。おしゃべりは極力しないようにとアナウンスが流れる。

オペラの休憩時間は、実は社交場なのだけれど、当たり前だけど今は社交はできない。それでも生のオペラを聴ける喜びは代えがたいものがある。全身で音楽を感じ、味わい、包まれる。それは舞台上のキャストはもちろん、観客にとっても命が輝く瞬間だ

 

オペラ「トスカ」新国立劇場

2021年1月23日、25日、28日(木)14時、31日(日)14時、2月3日(水)17時 詳細はコチラ

*2021年1月27日現在の情報です*写真・記事の無断転載を禁じます。

 

 

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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