Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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METライブビューイング「運命の力」 30年ぶりの新演出です

戦時下に、苦悩する恋人たちの仇討ちの物語ヴェルディ『運命の力』がMETライブビューイングで上映中です。上演は20年ぶり、新演出は30年ぶりです。オリジナルは18世紀のスペインが舞台で序曲が有名です。これを書いた時ヴェルディは49歳。この前年にイタリアが統一され、国会議員でもあったヴエルディは超多忙だったに違いありません。

(c)Karen Almond/Metropolitan Opera

物語は、結婚を反対された娘と恋人が誤って父親を殺してしまうところから始まります。それを知った兄は、2人に復讐の炎を燃やし追跡し続けます。その激情や哀しみが、美しい音楽で綴られます。ヴェルディの音楽はどれもドラマチックで魅力的です。

今回の演出は、1996年からオペラ界で活躍する映画監督マリウシュ・トレリンスキ。ポーランド国立歌劇場芸術監督でもあります。現代の感覚で刺激的な舞台を作り上げることで定評があるトレリンスキは、戦時下(念頭には、ウクライナ侵略があります)という設定で置き変えました。2022年には新国立劇場で「ボリス・ゴドゥノフ」を演出し大好評を得たトレリンスキは、期待をたがえません。映像を交えながら、今風に見せてくれます。

(c)Karen Almond/Metropolitan Opera

侯爵の娘、レオノーラ役のノルウエーのドラマチックで叙情的なソプラノ、リーゼ・ダーヴィドセンが秀逸です。レオノーラの感情に合わせて色彩豊かに歌います。第一幕で、反抗的だけれど反抗し切れない娘のいらいらした感情が表出します。愛する人と一緒にいたい、自由でありたいと願いつつ、父の愛を求めます。

第2幕では、娘を呪いながら死んだ父へ許しを請うて、そして愛する男に捨てられたと思い込み絶望の中で神に身をゆだねます。厳かで神聖な歌は、見ているこちらまで敬虔な気持ちになります。

この第2幕の舞台美術が刺激的です。ぜひ大きな劇場で見てください。美術はポリス・クドリチュカ。「オリジナルには政治的・宗教的な特殊な空気があり、現代の人に共感をえてもらうために時代を今にした」と語っています。

(c)Karen Almond/Metropolitan Opera

第3幕冒頭のアリア、レオノーラの恋人ドン・アルヴァ―ロ役のアメリカのテノール、ブライアン・ジェイドの歌も心を打ちます。レオノーラへの愛と、自分の出自を歌います。

そして、第4幕、レオノーラのアリア「神よ平和を与えたまえ」は、恋人への愛と天国での安らぎを願う名曲です。

何度も繰り返し聞きたいダーヴィドセンの歌。

カラトラーヴァ侯爵の、ソロモン・ハワードは修道院長と二役です。侯爵の息子、レオノーラの兄ドン・カルロにロシア人バリトン、イーゴル・ゴロヴァテンコ。彼もまたのびやかな声を出していました。ジプシー、プレツィオジッラにユデイット・クタージ。メリトーネ修道士にパトリック・カルフィッツィ

指揮は、ヤニック・ネゼ=セガン。ヴェルディが大好きだと語っています。案内役のソプラノ・ネィデイーン・シエラが「ヤニック・ネゼ=セガンは、歌手に寄り添ってくれる」と話していました。次のMETライブビューイングの演目の「ロミオとジュリエット」のジュリエットを歌います。

歌手人たちが安定の歌声で余裕があり、艶やかに情熱的で、繊細に細やかに歌い心のひだに入り込みます。物語がわかりにくいと言われることが多い「運命の力」ですが、この演出で時代を現代に移して、より身近に、よりわかりやすい物語になりました。

METライブビューイング ヴェルディ「運命の力」2024年4月19日(金)~25日(木)東劇のみ5月2日(木)まで。

*2024年4月24日現在の情報です。*記事・写真の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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